手軽に買える“痩せ薬”の裏側──マンジャロに手を出す前に知るべきこと

「痩せている=キレイ」
現代の人々は、物心ついた頃からそんな空気に触れているように感じます。
SNSで絶えず流れてくるスリムな人の写真やダイエット情報、そしてマンジャロという言葉。
今回、森ノ宮医療大学の安部先生の指導のもと、看護学科の学生が“マンジャロの実態”を調べた卒業研究を取材し、同世代だからこそ見えてくる現状をまとめました。

今回お話をお伺いした人

森ノ宮医療大学 看護学部看護学科/山口 凜 さん

四條畷学園高等学校を卒業後、救急医療に携わる看護師をめざし森ノ宮医療大学へ入学。現在は、卒業研究と看護師国家試験に向けた学修に励みながら、高い専門性と温かなケアの心を兼ね備えた看護師、さらに将来はDMAT(※)の一員として社会に貢献できる人材をめざしている。

※医師・看護師などの医療職等で構成され、災害や事故現場で約48時間以内に活動できる機動性を持つ、専門的な訓練を受けた災害派遣医療チーム

【監修】森ノ宮医療大学 看護学部看護学科 教授/安部 辰夫 先生

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マンジャロが“痩せる理由”と副作用リスク

詳しい機序は省きますがマンジャロは、血糖値を下げる目的で投与される糖尿病治療薬です。
ただそれと同時に、脳の「タニサイト」という細胞に作用し、食欲を抑える働きも。
さらに胃の動きを抑えることで、少量でも満腹感を得やすくなります。
そのため結果的に体重が減少するため、近頃は美容目的で使用する人が増えているといいます。

しかしその代償は軽くありません。副作用として、
・吐き気、下痢、便秘などの消化器症状
・強い疲労感
・低血糖
・まれに急性膵炎
があるほか、食べ物を見ると吐き気がするようになったケースも。
中断すると高確率でリバウンドするため、使用の際はこうした副作用と付き合っていく必要があるのです。

身近な人の変化が研究のきっかけ

山口さんが研究をはじめたきっかけは、身近な人の変化でした。
投与 → 副作用による体調不良 → リバウンド → 投与 → 副作用…
そんなサイクルを繰り返す様子や、皮が垂れた不健康な痩せ方を見て、「これはただのダイエットじゃない」と感じたといいます。

薬自体に依存性があるわけではない。
しかし、「痩せたい」という気持ちが心を支配し、“やめられない”状態になってしまう。
その状況は医療者のタマゴとしても、同世代の一人としても、見過ごせないものだったそう。

山口さんは「痩せる」という結果は同じでも、健康的かどうかはまったく別問題だということを、身近な人の経験から痛感したのだそうです。

オンラインで手軽に買える怖さ

日本では、痩身目的でのマンジャロの処方は認められていません(※)。
しかし現在は、自由診療を行う美容クリニックなどで、オンライン問診だけで処方され薬が郵送されてきます。
「クリニックに行くのは抵抗があるけれど、ネットなら気軽」という理由から、20代女性の間で一気に広がっていると山口さんは話します。

※アメリカでは痩身目的での処方が合法

ただその“手軽さ”が問題です。
薬は処方時に使用方法や副作用の説明が欠かせません。
しかし、自由診療の際は十分な説明がされないケースもあり、相談窓口も曖昧
「医師に連絡していいのかわからない」と不安を抱えたまま使用する人も少なくないそうです。
実際、山口さんの身近な人も副作用に苦しみながら、誰にも相談できずに投与を続けていたといいます。

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自由診療の“影”— 不透明な責任の所在

調査の中では、もっと深刻な問題も見えてきました。
自由診療を行うクリニックの一部では、
・カウンセリングを無資格者が担当
・ノルマ制で過剰な処方
・効果のない高額治療を勧められる
などの実態が判明。
マンジャロの話においても、医師の管理が不十分なまま「自己責任」で痩せ薬が流通している現状は、明らかに危険です。

さらに、美容目的の使用が増えたことで、本来必要な糖尿病患者に処方されるための薬が不足しているといいます。
過去には緑内障治療薬が美容目的で使用されたケースもあり、こうした本来の目的外の薬剤使用により、本当に必要な人へ届かなくなる社会問題はこれまでにも起きています。

痩せに縛られる社会で、どう生きる?

取材で印象的だったのは、山口さんが教えてくれた一つのデータ。
『やせたい』と思っている女子児童が小学4年生で4割、6年生では約半数に上った
これは国が令和5~6年度にかけ、小学生約1,900人を対象に調査した結果です。
さらに、調査で見つけたSNSのオープンチャットには、「痩せたい小学生」が集まりダイエット情報を交換している、という話にも驚きました。

また過度に痩せている女性は自身の健康だけでなく、その子どもの血糖異常リスクが高まるという研究もあります。
“痩身ブーム”の影響は、すでに次世代やその先にも及んでいるのです。

最後に──同世代へ伝えたいこと

山口さんは最後にこう話してくれました。
「今回の研究を通し、本当の“美しさ”って何だろうと改めて考えるようになりました。」

きれいになりたい気持ちは誰にでもあります。
でも、命を削ってまで手に入れる「痩せ」は、本当に美しいのでしょうか。
この卒業研究は、正しい情報に触れ理解し、そこから注意喚起や提案のできる看護師をめざすための学びでもありました。
あなたが自分の体を大切にできる選択を、この記事が少しでも後押しできたら嬉しいです。

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【この記事を書いた人】

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カツオ

三度の飯より釣りが好き。三度の飯は麺が好き。な元サッカー審判員(ギリギリ30代のアラフォー男)

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