ハッ…ックション!!花粉症の人にはつらい時期が続きますが、私も薬が手放せない一人。毎日ティッシュ片手に、職場でもゴミ箱をパンパンに膨らませています。ところが隣の席の人は花粉症ではないそうで、なんで人によって差があるのか不思議…。ということで今回は、大学でアレルギーを専門に研究している安部先生に、花粉症などアレルギーのメカニズムについて、お話しを聞いてきました。
今回お話しをお聞きした人
森ノ宮医療大学 看護学部看護学科 教授/安部 辰夫 先生
大阪大学大学院 医学系研究科卒、医学博士。専門は免疫学、アレルギー内科学、 病理学。大阪大学 医学部 第三内科分子免疫研究部門 研究員を経て、2016年4月より現職。
――安部先生、そもそもアレルギーって何ですか?
一口にアレルギーといっても実はⅠ~Ⅴ型まで種類があり、今日は花粉症や食物アレルギーなどが含まれる「Ⅰ型アレルギー」についてご説明しますね。
――え、そんなに種類が!?
そうなんです。バセドウ病や関節リウマチなどもアレルギーに分類されますが、今回のお話しと発生機序が異なります。医療職を目指している学生等は、よく国家試験に出るので勉強が必要です。
――それではⅠ型アレルギーについて教えてください
Ⅰ型アレルギーは簡単に言うと、アレルゲン(花粉や食べ物など)に対し、身体が誤って敵とみなし免疫反応を起こすことで引き起こされます。
Ⅰ型アレルギー患者の体内にはIgE(抗体)が出てきますが、この抗体は体内の肥満細胞※(マスト細胞)と結合し、この状態でさらにアレルゲンと結合することで、ヒスタミンという起炎物質が放出されます。
※ヒトが太ることとは無関係
このヒスタミンは血管を拡張したり、血液中の水分を放出(血管透過性亢進)する働きがあります。この働きが鼻で起これば鼻水や鼻づまりに、目で起これば涙や充血に、腸で起これば下痢になるなど、我々にとって困った症状がおこります。
「新組織学 第7版」 2020 日本医事新報社
――ほうほう。IgEがヒスタミンの放出を引き起こしアレルギーの反応が出る、と。
IgEは、もともと寄生虫に対し作用しますが、日本のような公衆衛生が整った国では、ヒトの身体の中ではなかなか出番がなく手持ち無沙汰になっています。そこに花粉や食べ物などのアレルゲンとよばれる物質が入ってくることで、寄生虫と誤認して、さらに多量に産出されます。しかし、そもそもなぜIgEが産出されるのか、そのメカニズムは現在の研究でもよく分かっていません。
――え、そうなんですか!?
実は花粉症患者の体内で出てくるIgEは、花粉のある特定の部位のみに反応し結合、過剰にヒスタミンが放出されることで起こります。一方、寄生虫に感染すると、大きな寄生虫のいろんな部位に対して複数のIgEが出てくることになり、これらが肥満細胞と結合することで花粉に対するIgEの結合が薄まると言えます。
これを利用し、寄生虫をわざと体内に入れることでアレルギー反応を引き起こさせない方法を研究している方もいますが、様々な事情で実用化には至っていません。
――そういえば一昔前にサナダムシを体内で飼う、というブームがありましたね
年齢がバレますが、ありましたね(笑)考え方はそれと同じです。ちなみに、ヒスタミンが放出されるのには条件があり、誰にでも起こるわけではありません。
――どういうことでしょう?
先ほど、ヒスタミン放出のメカニズムを説明しましたが、この反応には段階があります。そのため2回目以降、アレルゲンが何度も体内に入らないと、アレルギー反応は起こりません。最初は大丈夫だった人が突然アレルギーになったり、年々症状が強くなっていくのは、これが理由です。
また、アレルゲンによっては全身で反応が起こり重篤な状態になることをアナフィラキシー・ショックと言いますが、これも理由はよくわかっていません。
――怖い…アレルギーの治療方法はあるんですか?
一般的は、ヒスタミンの働きをブロックする作用のある薬を使いますが、これはあくまでも対症療法です。アナフィラキシー・ショックの場合も、エピネフリンという全身の血管を収縮させる薬を打ちますが、これも対症療法。
根本的な治療方法は今のところなく、あえて言うならアレルゲンから遠ざかることです。また減感作療法という、あえてアレルゲンを少量ずつ摂取し、身体を慣らしていく方法があります。
ちなみにヒスタミンは脳を活性化させる作用もありますが、花粉症の薬で眠くなるのはこれが妨げられるためです。最近の薬は、脳に作用しないため眠くならないものが増えてきましたが、特に自動車などを運転する方は、服用前に注意事項をしっかり読んでください。
――眠気を引き起こす薬ってよく聞きますよね
実は酔い止めや睡眠導入剤も、同じ原理を利用しています。ヒスタミンはアレルギーの話に限れば悪者ですが、時にはその作用を利用して普段の活動をサポートしたりするなど、実は我々の生活に深く関係しているんですね。
――ドライブも釣りも好きな花粉症人なので、これからはより一層、薬とうまく付き合っていきます。安部先生、本日はありがとうございました。