「腫れているのは一目でわかるのに、なぜ改めて聞くのか」
少し前になりますが、足首を捻り受診した芸能人がSNSへ投稿した内容について、大きな反響を呼びました。
投稿の真意はわかりませんが、私も同様に医療機関でのやり取りで戸惑いや憤りを感じた経験があります。
しかし医療の現場では、その質問が重大な意味を持っています。
今回はそんな医療現場でのやりとりについて、医師の前川先生にお聞きしました。
今回お話しをお伺いした人
森ノ宮医療大学 医療技術学部 学部長(教授)・副学長/医師 前川 佳敬 先生
島根医科大学 医学部医学科卒業後、大阪大学大学院 医学系研究科生体制御医学専攻 博士課程修了(博士)。大阪大学医学部附属病院内科系研修医、桜橋渡辺病院(現:桜橋渡辺未来医療病院) 循環器内科、大阪大学医学部附属病院 保健医療福祉ネットワーク部 副部長などを経て、2016年4月森ノ宮医療大学 保健医療学部(現:医療技術学部) 臨床検査学科 教授に就任。2022年より現職。
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診断は「消去法」で進んでいく
「明らかに腫れているのに、なぜ聞くのか。患者さんがそう感じるのは当然です」
と前川先生。「でも、見た目だけで判断しないことが、安全な医療の第一歩なのです」。
医師が診断を下すまでには、臨床推論(クリニカル・リーズニング)と呼ばれる数種類の思考様式があり、その一つに消去法(仮説演繹法)があります。
問診という患者さんへの質問によって症状や病歴、身体所見などを聞き取り、検査データとあわせて複数の疾患をリストアップし、可能性が低い順に除外していく方法です。
最も重視するのは「重大な病気を見逃さないこと」。
そのためには先入観にとらわれず、客観的な情報を積み上げることが大切で、結果的に安全な医療につながります。
名前や生年月日をくり返し確認するのも、同じ理由。
待合室で呼んだ名前とは別の患者さんが診察室に入ってきた…冗談のようですが、実際にあった話です。
聞き間違いや難聴などで起こり得ますが、そのまま診察を続ければ、誤った人に診断や薬を処方してしまう危険がありました。
確認は安全を守るための、大切なプロセスだと感じさせるエピソードですね。
医療に張り巡らされた安全網
医療現場では、医師以外にも各専門職がさまざまな場面で確認を行っています。
以下に一例を示します。
看護師:点滴を複数人でチェック
リハビリ職:対象部位・疾患の確認
臨床検査技師:検体ラベルと患者情報の一致確認
診療放射線技師:撮影前の本人確認や検査内容の確認
ところが、「丁寧に確認すればするほど診察時間が延び、他の患者さんの待ち時間が増えてしまう。医療現場ではそのバランスに悩んでいます」と前川先生。
時には患者さんに「院内で情報を共有していないのか」と言われることもあるそう。
だからこそ「念のため再度、確認させていただきますが」と一言添えるなど、医療者側が丁寧に理由を伝える姿勢が求められます。
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「そう思った理由は?」——患者の推測も診断の材料
問診が難しい場面もあります。
たとえば救急で意識を失っている患者さんの場合、倒れた様子を目撃した人から状況を聞き、診断のヒントを探します。
入院時に家族の付き添いをお願いするのも単に保証人としてではなく、これまでの経過や生活背景を把握する目的も。
診断・治療の精度を高めるため、さまざまな手段で情報を集めます。
「最近はWEBで調べて『この病気ではないか』と見当をつけて来る患者さんも増えていますが、私はウェルカムです。『そう思った理由は?』と聞くことで、さらに詳しい情報を引き出せることがあります」。
医師が一方的に答えを出すのではなく、患者さんと医療者が協力して病気を見つけ、治していく——前川先生はその姿勢を大切にしています。
こうした姿勢は、医学部教育でも重視されています。
医学生は、患者さんとの会話や対応の仕方を評価する“OSCE(オスキー)”という試験に合格しないと、次の学年に進めない仕組みになっています。
医療の現場に出る前から、患者さんとの接し方をしっかり学び、練習し続けているのです。
問診は尋問ではなく、対話
「患者さんにとってはつらい状況の中で、私たちがいろいろな確認をするのは、間違いを防いで、正しい医療を届けるためです。
だからこそ、患者さんの気持ちにしっかり寄り添いながら、わかりやすく丁寧に説明することが、私たち医療者の大切な役割だと思っています」
と前川先生は語ります。
その上で、患者さん側に整理しておいてもらえると助かる情報は何か、お聞きしました。
・主訴(最も困っていること)
・発症した時期
・症状の特徴や経過
・服用中の薬
・これまでの病歴
・家族の病歴 など
患者さんの中には、遠慮して話を短くしようとする方も多いそうですが、「気にせず教えてくださいね」とも。
事前に情報をまとめておくのも有効です
患者と医療者が、情報を持ち寄って対話を重ねること——
その協力関係こそが、安全で確かな医療の土台です。
海外(特に欧米のかかりつけ医など)では初診の問診や診察に30分以上かけることも珍しくありません。
それほど問診は重要なプロセスだということです。
体調が悪いときは、やり取りが煩わしく感じるかもしれません。
それでも、その一つ一つがあなたを守るための大切なステップ。
どうか遠慮せず、ご自身の状態を詳しく伝えてください。
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【この記事を書いた人】
カツオ
三度の飯より釣りが好き。三度の飯は麺が好き。な元サッカー審判員(ギリギリ30代のアラフォー男)
