私たちの世界では、地震や台風などの自然災害、大規模火災や爆発事故といった人道的危機が発生すると、迅速かつ効果的な支援が求められる場面が多くあります。そんな時に、海外の被災地へ向かい、援助を行っている「国際緊急援助隊」という存在をご存じでしょうか。今回はその登録隊員である水本先生に、沿革や活動についてお話を伺いました。
今回お話をお伺いした人
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森ノ宮医療大学 看護学部 看護学科 助教/看護師・保健師 水本 英佑 先生
大阪府立大学大学院看護学研究科博士前期課程修了(修士)。看護師として大学病院の三次救命救急センターで経験を積み、2022年に森ノ宮医療大学に着任。国際緊急援助隊医療チームの登録隊員としても活動中。
国際緊急援助隊ってなに?
「国際緊急援助隊」は独立行政法人国際協力機構(2003年10月設立。前身は1974年8月に設立された特殊法人国際協力事業団。技術協力、資金協力などの事業を通じて発展途上国の発展を支援する組織。以下、JICA)の人的援助事業として、世界中に派遣され援助活動を行っています。地震や台風などの自然災害が多発する日本は、災害対応に関する豊富な経験やノウハウを積み重ねており、これらの経験から、1970年代後半に途上国へ災害救援を目的とした人材の派遣が始まりました。1987年には「国際緊急援助隊の派遣に関する法律(JDR法)」が施行。1992年の同法改正により、救助チーム、医療チーム、専門家チーム、自衛隊部隊の派遣が可能となりました。また、西アフリカで流行したエボラ出血熱に対応するため、2015年には感染症対策チームが新たに設立され、現在では5チームが活動をしています。なお、お話を伺った水本先生は看護師として、医療チームに登録されています。
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〈先生が登録している医療チームの構成。さまざまな職種の人材が活躍しています。(JICA提供)〉
チームの種類と役割
・救助チーム…被災地での被災者の捜索、発見、救出、応急処置、安全な場所への移送が主な任務。外務省、警察庁、消防庁、海上保安庁、医療班、構造評価専門家、業務調整員(関係者と連絡、情報収集、物資調達などを行う人材)で編成。
・医療チーム…被災者の診療とともに、疾病の感染予防や蔓延防止の活動を行う。医師、看護師、薬剤師、医療調整員(検査、医療機器管理、リハビリテーションなどを行う人材)、外務省、業務調整員で編成。
・感染症対策チーム…疫学、検査や診断、診療や感染制御、公衆衛生対応などの専門的な役割に加えて、隊が自ら活動を完結できるようにするロジスティクス(物資や設備、運営の支援)の機能も。
・専門家チーム…建物の耐震性診断や火山の噴火予測、被害予測などを通じて、災害対応や復旧活動に関する助言を被災国政府に行う。また、新たな感染症が発生した場合は、被害拡大防止に関するアドバイザーの役割も担う。関係省庁、地方自治体、民間企業の技術者や研究者、業務調整員などで編成。
・自衛隊部隊…艦艇・航空機を用いた輸送、給水、医療・防疫活動を行う。自衛隊より編成。
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〈現在のチーム構成。(JICA提供)〉
国際緊急援助隊の活動範囲
国際緊急援助隊はJDR法に基づき海外で災害が発生した際に派遣されるため、国内の災害時には災害派遣医療チーム(DMAT)が対応します。また災害に対し、被災国自身が救済に関して中心的な役割を担う責任があること、被災国の事情や都合を考えない一方的な援助は混乱を招くおそれがあることから、人的援助は被災国の同意のもとに行うということが、国連において決議されています。そのため国際緊急援助隊は海外で発生した全ての災害や人道的危機に派遣されるわけではなく、派遣実施は次の流れで決定されます。
被災国または国際機関
↓(援助要請)
被災国の日本大使館など
↓(援助要請の通報)
外務省
↓(派遣命令)
JICA
↓(派遣チームの選定)
国際緊急援助隊の派遣
上記の流れで派遣決定後、隊員へ要請の連絡が来ます。水本先生はいつでも応じられるよう、日本ではまれな疾患も含めさまざまな予防接種を受けて、日々徹底した体調管理を行っています。また安全靴や衛生用品など、現地で活動するために必要なものを常に準備しているとのことでした。
そして現地到着後には医療の提供だけでなく、施設代わりのテント設営から活動を開始し、現地の状況に応じて、手術や透析、分娩、リハビリ、入院などにも対応可能な体制を構築していきます。
(参照:JICA国際緊急援助隊事務局 公式X)
https://x.com/jdr_secretariat/status/1625767179496062976?s=20
https://x.com/jdr_secretariat/status/1626680897683574807?s=20
国際緊急援助の活動に参加するには
医療チームの国際緊急援助の活動に参加するためには募集状況を確認の上、書類提出と仮登録を行います。その後、導入研修を経て、最終審査に合格した人が派遣候補者として本登録されます。応募要件には、
・実務経験5年以上(研修医期間を含む)、及び緊急医療活動に従事するにふさわしい専門技術を有している方(医師については医師免許、看護師については看護師免許あるいは准看護師免許、薬剤師については薬剤師免許を取得している方)。
・海外における最低限のコミュニケーション及び語学力(英検2級程度・TOEIC540点相当の英語力を有することが望ましい。他言語も同程度を基準)をお持ちの方。
・事務局から派遣依頼があった場合には、所属先の同意を得て早急に出発することが可能な方(派遣決定から48時間以内に出発することを目標としています)
などのさまざまな条件があります。また登録隊員となった後も、継続的に研修や訓練を受け、いつでも対応できるよう専門技術を磨き続ける必要があります。
その他チームについては、JICAのWEBサイトをご覧ください。
(参照:医療チームへの参加に関心のある方へ | 事業について - JICA)
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〈研修は3日間実施するものも。(JICA提供)〉
最後に~水本先生からのメッセージ~
水本先生は、「これから先、南海トラフ地震など日本国内で大規模な災害や人道的危機が発生した場合には、私たちが世界中から援助を受けることもあり得ます。この記事を通して、国際緊急援助隊の活動に興味を持っていただくとともに、災害などについて改めて考えるきっかけとなれば幸いです」と語ります。必要とされた時に、素早く現地へ向かい援助を行う。そんな存在がいることをぜひ知っておいてくださいね。
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【この記事を書いた人】
Θ(シータ)
Θに似ているたらこくちびるが由来。1歳の女の子パパをしています。
