「クサいっ!」と言われないように…。体臭の謎にせまる!

夏です。さまざまなレジャーが楽しめワクワクする予定が多い一方、身体の臭いが気になる時期でもあります。筆者も電車の中で臭いに遭遇した場合は、ついつい息を止めてしまうのですが、そもそもなぜ身体は臭いを発するのでしょうか。今回はそんな疑問を、医師の前川先生にぶつけてきました。 

※今回は記事の性質上、「におい」の表記をすべて「臭い」で統一しています

今回お話をお伺いした人 

森ノ宮医療大学 医療技術学部 学部長(教授)・副学長/医師 前川 佳敬 先生 

島根医科大学 医学部医学科卒業後、大阪大学大学院 医学系研究科生体制御医学専攻 博士課程修了(博士)。大阪大学医学部附属病院内科系研修医、桜橋渡部病院 循環器内科、大阪大学医学部附属病院 保健医療福祉ネットワーク部 副部長などを経て、20164月森ノ宮医療大学 保健医療学部(現:医療技術学部) 臨床検査学科 教授に就任。2022年より現職。 

臭いの原因とは?

体臭が発生する主なメカニズムは、常在菌と呼ばれるヒトの身体に住み着いている細菌が皮膚から分泌される汗・皮脂を分解する際に、臭いが発生するためと考えられています(ほぼ無臭の大豆が菌の働きにより納豆になる際、臭いが発生することがイメージとして近いです)。
実はこの常在菌、皮膚や消化管、粘膜などに存在し、種類にして8001,000種、数は数百兆個に上ります。ヒトの身体を構成する細胞の数が約36兆個であることを考えると、とんでもない数の菌が私たちの身体で共生していることが分かりますね。なおこの常在菌、臭いを作り出す悪者のように言ってしまいましたが、免疫やエネルギー生産など、私たちの活動に大きく貢献してくれているものが多くいます。

種類別の原因と対策…

ワキ
前述したように常在菌が汗を分解することで臭いが発生しますが、汗が出る汗腺はエクリン腺とアポクリン腺の2種類があります。エクリン腺からの汗は約99%が水であるためほぼ臭いはありません。一方、アポクリン腺からの汗は脂質や蛋白質など、臭いのもとになりやすい成分を多く含んでおり、動物におけるフェロモンに似た役割を果たしていたと考えられています。
アポクリン腺は脇の下をはじめ、耳の中・乳輪・陰部などに多く存在するため、これらの部位に臭いが発生しやすくなります。洋服の「黄ばみ」は、アポクリン腺から分泌された物質や皮脂が付着しており、それが臭いのもとになることもあります。

足の裏
ヒトは足の裏に1250500mlもの汗をかくことがあります。靴や靴下を着用することで、かいた汗が蒸れて細菌が増殖しやすくなり、特有の臭いが発生します。足指の間の湿度、皮膚の角質層の厚さ、水虫などの要因が重なると、足の臭いが強くなることがあります。 

加齢臭
頭部、首、背中などの皮脂腺は皮脂を多く分泌し、これが酸化することで加齢臭の元である「-ノネナール」というガスが発生します。このガスは男性で35歳、女性で40歳以降から発生しやすくなり、特に50歳以降で男女ともに知覚されやすくなります。ガスのため体温で発生する上昇気流に乗り、頭頂部から上の空間に広がりやすい傾向があります。 

汗臭さ
汗の原料である血液には身体の栄養素である各種のミネラルが含まれていますが、そのまま汗とともに出ないよう汗腺が「ろ過機能」を持つことで、水に近い汗を出しています。この汗腺のろ過機能が低下すると、水以外のミネラルが多く出ていくためイヤな臭いが発生しやすくなります。
また、ミネラルが失われることで慢性疲労や熱中症の原因にも。日頃から運動をして適度に汗をかくことで汗腺が鍛えられ、よい汗をかけます。また、過度のストレスや偏った食事なども、臭いを強める原因になるので注意が必要です。

対策:
1.汗や皮脂を洗い流す
2.細菌が増えないような対策を(乾燥、通気性)
3.日頃から適度な運動で汗をかき、汗腺を鍛える

自覚がないのはなぜ?

嗅覚は不思議なもので、初めは敏感ですが次第に適応し鈍感になります。分かりやすい例で言うと、友だちの家に初めて行った時、自分の家と違う臭いを感じますが、いつのまにか気にならなくなっている、あの状態です。体臭でも同じことが起きているため、自分の臭いは気づきにくいのです。もしご自分の臭いに不安がある場合、簡単なテストをしてみましょう。

テスト方法

  1.   1日着たTシャツや肌着、ひと晩寝た枕カバーなどをポリ袋に入れ、空気をちょっと入れて密封する
  2.   外の新鮮な空気で大きく深呼吸して自分の嗅覚をリセットし、ポリ袋を開けて中の臭いを嗅ぐ

いかがだったでしょうか。リアルなあなたの臭いを嗅ぐことができたと思います。

まとめ

嗅覚はヒトの最も原始的な感覚の一つで、臭いで危険を察知し身を守ることができます。それと同時に、潜在的なイメージの構成にも寄与し、現代社会では香りをコントロールすることでコミュニケーションツールにもなっています。そのため最近では、過剰に自身の臭いを気にして本当は臭くないのに臭いと思い込んでしまう「自臭症」に苦しむ人がいたり、香害という新たな社会問題も…。また、「いつもと自分の臭いが違う…」と思ったら病気だった、という事例もあるそうです。

幸い、現代はテクノロジーが発達し、臭いを数値化することができます。客観的に自分の臭いを見つめることで、安心して日常を過ごすことができるのではないでしょうか。愛するわが子に臭い! と言われても、「パパは臭いの数値が低いから臭くない!」と胸を張って言えますよ。

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