触る、痛い、くすぐったい——私たちは「感じる」ことで世界を認識しています。
しかしこの「感覚」、実は数値化できません。病院で「痛みは10段階でいくつ?」と聞かれるのも、そのため。
視覚や聴覚と異なり、触覚は今も主観的な評価に頼らざるを得ないのです。
今回はそんな感覚の不思議な性質を、理学療法士の先生に聞きました。
今回お話をお伺いした人
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森ノ宮医療大学 総合リハビリテーション学部理学療法学科 講師/理学療法士 仲本正美 先生
金沢大学医学系研究科 環境医科学専攻修了。医学博士。専門は姿勢制御と感覚統合。2012年4月より現職。足底感覚と姿勢の関係を研究し、転倒予防やバランストレーニングの分野で活躍している。
「感じる」とは何か——感覚の不思議な性質
今、足の裏で床を押してみてください。靴下越しでも、床の硬さや温度がわずかに伝わるはずです。
私たちの「触った」「痛い」「熱い」といった感覚は、皮膚や筋肉、関節にある感覚受容器(メカノレセプター)が刺激を受け、神経を通って脳に伝わります。
ところがこの受容器の密度は部位によって大きく異なり、手のひらは非常に精密ですが、足の裏(以下、足底)はそれほどでもありません。
ためしに目隠しして足の指を触られると、小指と薬指を間違えてしまうことも。
同じ「触覚」でも、部位によって解像度が違うのです。
いったいどれだけ足底を触られているのでしょう…
感覚にはウェーバー・フェヒナーの法則という性質があります。
手のひらに羽1枚を置くとその変化に気づけますが、あらかじめ1kgの重りが乗っている状態で羽を乗せても気づけません。
感覚は、刺激の「絶対量」ではなく「相対的な変化」で捉えられるのです。
足底は常に体重という刺激を受けているため、持続的な刺激には慣れています。
足を宙にあげてコチョコチョと触られると、くすぐったく感じるのはこのためです。
感覚は使わないと衰える——あなたは8割?
仲本先生が研究しているのは、足底の感覚です。「立位では見えない部分を調べることが楽しい」と語る先生。
足底の受容器は地面の情報を脳に伝えますが、この感覚が鈍ると筋肉の反応が遅れ、バランスが不安定になり転倒リスクが高まります。
ところが筋肉の感覚と足底の感覚を分けて検査した(※)ところ、驚くべきことに80%の人が足底感覚を使えていないことが判明したそうです。
※感覚が鈍くても、筋肉や視覚など他の要素で立つことができるため、日常生活に支障がない場合もあります
感覚は、必要とされる環境で鋭敏に保たれます。
日本舞踊やバレエなど繊細な動きをする人は足底感覚が鋭く、剣道やバスケットボールなど素早い動きが中心の人は筋の感覚が優位で、足底の感覚は意外と鈍い。
毎日歩く人ほど感覚が敏感で、脳卒中後の患者さんでも、歩行習慣のある人の方が感覚が鋭い、という実験結果が出ています。
使わない感覚は、確実に鈍っていきます。
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これは現代人だけの話ではありません。
人類の進化も、同じ仕組みで進んできました。
赤ちゃんには「足底把握反射(そくていはあくはんしゃ)」という、足底を刺激するとギュッと指を閉じる反射がありますが、成長とともに消えます。
これは人類が直立二足歩行を選んだ結果。
足の指で物をつかむ必要がなくなったため、その繊細な感覚は退化していったのです。
仲本先生の研究を少しご紹介
人が立っている時の「揺れ」に伴い、足底の荷重分布が変化していたことを解明した実験結果
揺れを感じて荷重部位を調整した部位がわかることで、「その部位の感覚が鋭いかもしれない」ということが推測できるのだそうです
感覚は主観的。だから「痛みは10段階で?」と聞かれる
冒頭で触れたように、病院でこう聞かれるのは、感覚が主観的で数値化しにくいからです。
同じ刺激でも、「少し痛い」と感じる人もいれば「かなり痛い」と感じる人もいます。
光の波長や音の周波数は機械で測定できますが、触覚・圧覚・痛覚などの体性感覚は、今も主観的な評価に頼らざるを得ません。
仲本先生いわく「感覚は心理学の分野」。同じ刺激でも、気分や状況、過去の経験によって感じ方が変わる。
この主観性こそが、感覚研究の難しさであり、同時に魅力でもあるのだそうです。
関連記事:視覚や聴覚も、「感じる」という主観的な世界を扱います。これらの感覚に関わる専門職について、詳しくはこちらをご覧ください。
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まとめ:見えない「感覚」が、身体を支えている
私たちは感じているようで、実は感じていない刺激に囲まれています。
足の裏に少し意識を向けることは、感覚と脳の関係を知る入り口であり、自分の身体と向き合うことでもあります。
まずはスキマ時間に、足の裏で床の感触を感じてみる——そんな小さな習慣から、感覚を育ててみませんか?
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【この記事を書いた人】
カツオ
三度の飯より釣りが好き。三度の飯は麺が好き。な元サッカー審判員(ギリギリ30代のアラフォー男)
