春はあけぼの、いとをかし…。少しずつ春めいてきましたね。3月は国際的な大腸がんの啓発月間であるそうです。大腸がん治療でも用いられる「放射線治療」は手術、薬物療法(抗がん剤治療)に並ぶがんの三大治療法の一つ。しかし、医療での放射線といえばレントゲン撮影のイメージしかない筆者。そこで今回は放射線治療の仕組みや特徴について、診療放射線技師の先生にお聞きしました。
今回お話をお伺いした先生
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森ノ宮医療大学 医療技術学部 診療放射線学科 教授/診療放射線技師 奥村雅彦 先生
名古屋大学大学院医学系研究科医療技術学専攻博士課程修了(医療技術学博士)。専門分野は放射線治療技術学、研究テーマは「外部放射線治療装置の精度保証に関する研究」ほか。近畿大学病院での勤務を経て、2020年4月より現職。
放射線=レントゲン?放射線とは?
人の体は、とても小さな原子でできています。原子のまわりには、電子という小さな粒が動いており、この電子が弾き飛ばされることを電離作用(でんりさよう)といいます。この電離作用を起こす電磁波や粒子を「放射線」とよび、この原理を利用するのが放射線治療です。
放射線は光子線(X線やγ線)、電子線、陽子線などの複数の種類がありますが、放射線治療で用いる放射線は、X線や電子線が一般的です。ちなみに医療でよく聞くレントゲン撮影は、X線を発見した博士の名前から名付けられており、放射線の一種ではありません。(なんと、本日3/27はレントゲン博士のお誕生日です。)
原子のまわりを動いている電子を放射線で弾き飛ばします。
放射線治療で用いるリニアック
放射線治療では体の外から放射線を照射します。そのときに使用するのが直線加速器(以下、リニアック)という機械。リニアックの寝台に患者さんに横になってもらい、上下左右に動かしながら放射線を照射していきます。なんと1台何億円もする機器だとか…!![]()
リニアック(画像提供:滋賀医科大学医学部附属病院)
がん細胞に放射線をあてることで、電離作用によってがん細胞が壊れて死滅します。放射線治療は、がん細胞だけにピンポイントで放射線をあてることはできません。そのため、正常細胞にもダメージを与えてしまい、正常細胞やリスク臓器※に障害が起こることがあります。※リスク臓器:がん細胞の近くにある放射線をあてたくない臓器のこと。![]()
死んだ細胞は、体内のお掃除細胞が片付けてくれます。
放射線治療の仕組み、細胞の回復力の違いがポイント
上述のとおり、がん細胞だけにピンポイントで放射線を照射することはできません。そのため分割照射といって、毎日少しずつの量の放射線をあてていきます。がん細胞は回復力が弱く、正常細胞は回復力が強いため、がん細胞は毎日の照射に回復が追い付かず死んでいきますが、正常細胞はダメージを受けても回復することができます。
たとえば乳がんの場合、一般的には1日1回(2Gy(グレイ※))を週5日、25回程度(約1か月半)かけて照射するそうです。1回の治療にかかる所要時間は15分程度ととても短時間。診療放射線技師は、患者さんに腕の上げ下げや向き、保持する角度を指示したり、固定具で体が動かないようにしたりしながら必要な場所に放射線があたるよう、調整を行います。(前立腺にあてるときには、直腸に溜まったガスを抜くこともあるのだとか。)
※Gy(グレイ):組織が受けたエネルギー量の吸収線量の単位
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放射線治療の強みとは?
局所治療を行い、形態や機能が温存できる
手術も局所治療の一つですが、形態や機能を残せるかどうかが決定的な違いです。たとえば、喉頭がんや乳がんの治療時、手術では声や乳房を失う可能性があります。放射線治療であれば、形態や機能を保ったまま治癒を目指せる場合があります。これはQOL(生活の質)の面で大きなメリットです。
他の治療との併用可能
薬物療法を行うことで、がん細胞の感受性が上がり、より放射線治療の効果を高めることができます。また、手術を行うことが困難な場所にがん細胞があるときに、先に放射線治療を行い、がん細胞を小さくしてから手術を行うケース等もあります(術前照射)。
体への負担がない
放射線を照射しているときに、痛みや熱感はありません。
急性期有害事象といって、照射期間中に照射した部位によって痛み、下痢、皮膚に発赤などの症状があらわれるケースもありますが、これは治療後2週間程度で治ります。怖いのが、晩期有害事象です。それぞれの部位に耐容線量があり、一定の線量を超えてしまうと、数カ月から数年後に照射した部位に萎縮、潰瘍、繊維化など不可逆的な症状があらわれます。これらが起こらないよう放射線治療には高い精度が求められます。
がんの部位や状態によって放射線治療の適用に向き不向きがあります。また患者さんの健康状態、がん細胞の進行具合はさまざまです。根治が難しい場合にも、緩和治療として放射線治療を行うこともあります。
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進化する放射線治療―IMRTと粒子線
近年増えているのが、強度変調放射線治療(IMRT)。従来との違いは、放射線の強さを場所ごとに細かく調整できること。がん細胞には強く放射線をあて、正常細胞への影響を減らすことが可能です。その分、ズレが生じると正常細胞への影響が大きくなるため、より高い精度の技術・管理が求められます。患者さんの状態によって、選択される方法です。
さらに最先端なのが粒子線(陽子線、炭素線)治療。X線や電子線よりも粒子が大きくて重たく、一度で得られる効果も大きいです。しかし、リニアックよりも大きな装置が必要となり、実施できる施設が少なく、また部位によっては保険適用外で医療費が高額になります。
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最後に
診療放射線技師は照射のほか、CT画像等を撮影して、照射位置を計算し、線量調整、セッティング、機器の調整、固定具の作成等を担います。治療回数を重ねるごとに、がん細胞が小さくなったり、厚みが薄くなったりして「とても難しいけど、やりがいがあって奥が深い!」と奥村先生はおっしゃっていました。放射線治療の取材を通して、あらためて医療分野は日進月歩だな、と感じました。
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【この記事を書いた人】
はくまい
美味しいごはん(とお酒)が大好き!ごはんのために働き、ごはんのために眠る!!今日もカロリーと幸せを噛みしめ、数字より気持ちで生きる30代おなご。
