話す・聴く・食べるが仕事!?言語聴覚士の仕事内容に迫る

2024.04.24

カフェや居酒屋、学校や職場…私たちの生活はいたる所で人との会話を楽しみ、また共に食事をすることで豊かなものとなっています。ところが病気や事故などが原因で、それらが楽しめない状態になったら…。「できて当然」が失われた日常の不便さは、想像することも難しいものです。今回はそんな私たちの、自分らしい生活を支える仕事「言語聴覚士」をご紹介します。

今回お話をお伺いした人

中谷先生/言語聴覚学科

森ノ宮医療大学 言語聴覚学科 学科長(教授)/言語聴覚士 中谷 謙 先生
ワシントン州立大学大学院で修士号(言語聴覚科学)、金沢大学大学院医学系研究科で博士号(保健学)を取得。急性期病院の脳神経内科にて言語聴覚士として勤務した後、4年制大学で言語聴覚士養成に従事。2024年4月より現職。日本高次脳機能障害学会評議員、認知神経科学会評議員ほか。

言語聴覚士ってどんな仕事?

医師や看護師など、病院の中でよく目にする職種と異なり、言語聴覚士はあまり見かける機会がない仕事です。理学療法士や作業療法士と同じリハビリテーションを行う仕事ですが、患者さんとは静かな個室(※)の中で、発話や聞こえについて検査や訓練を行います。また、食べ物を飲み込む機能に障がいがある方に対しても、訓練を行います。
そのため直接かかわりがある人以外は、言語聴覚士の仕事内容だけでなく職種そのものを知らない方も多いのではないでしょうか。実際、言語聴覚士の資格保有者は他のリハビリテーション職と比較して少ない(下図参照)ものの、医療や福祉などさまざまな現場での活躍が求められています。また超高齢社会を迎えた日本において、今後ますますニーズが高まることが予想される職種です。
会話を行うため

話す・聴くができないってどんな状態?

言語聴覚士が対象とする患者さんは、(主に小児の)発語の遅れや発音の問題などから、(主に成人の)失語症や失読症といった脳機能障害を原因とする症状まで幅広く対応します。普段何気なく言葉を発し、会話している方には想像しづらいですが、脳の機能に障がいがあると、どんな症状が出るのでしょうか。
例えば失語症では、通常なら頭の中でイメージしたもの…例えば「りんご」を頭に思い浮かべ、それをそのまま「りんご」と発声することができるところ、「えっと…」と言葉が出てこなかったり、「本」などの全く違う言葉が発したりします。この状態では日常会話もままならず、他人とのコミュニケーションに支障が出ることは容易に想像できますよね。言語聴覚士はこうした患者さんに対し、絵カードなどを使いながら、頭の中と言葉を紐づけていきます。

ちなみに関西出身の言語聴覚士が関西以外の地域で働いていた際、患者さんの家族に「うちの子ども、関西弁になりませんか?」と本気で心配されたことがあるそう…(笑)
基本的には標準語で訓練をするこ
とが多いものの、その土地の言葉や方言で訓練する必要も時にはあるそうで、準備も大変そうですね。

(安全に)食べることができないってどんな状態?

おしゃべりをしながら食事をしていると、ふとしたはずみでせき込んでしまった経験がある方は多いのではないでしょうか。喉の奥は、肺に向かう「気道」と、胃へ向かう「食道」に枝分かれしており、食べ物を飲み込む際のみ「食道」へ向かう道が開かれるように振り分けが行われています(スゴイ!)。

ところが病気や加齢などによりこの機能が衰えると、振り分けがうまくいかず、食べ物が誤って気道へ送られてしまいます。健常であればその段階で「ゲホゲホ」とむせることで、肺の中へ食べ物が入ることを防いでいますが、これもなんらかの要因で機能が衰えた方は、気管の入口付近や肺の方まで食べ物が到達することになります。
高齢になるほど死亡者数は、こうした誤嚥を原因とする肺炎(誤嚥性肺炎)が大半を占め、超高齢社会を迎えた日本において言語聴覚士の需要は今後ますます高まると予想されています。

ちなみに、何でも口に入れてしまう赤ちゃんですが、実は誤嚥しにくい口の構造になっているそうです(舌が占める割合が大きく、口の中の空きスペースがほとんどない)。そこから成長に伴い、発話できる代償に誤嚥のリスクが増していくんですって。『赤ちゃんの気管の太さはその子の小指とほぼ同じ』、『子どもの口の大きさはトイレットペーパーの芯の直径とほぼ同じ』、ということを覚えておき、注意して見守ってあげないと…!

人間の人間らしい文化的な生活を支える!言語聴覚士って素敵!

「人と話すこと」「食べること」が好きな人は多いと思いますが、それらの能力を失ったり制限されることを考えたことはあるでしょうか?当たり前にできることほど、失った時の喪失感は大きく、生活に大きな影響を与えるものです。

言語聴覚士はそれらの状況におかれた人を対象に活躍する、いわば「人の尊厳を取り戻す」仕事です。誰もが歳を重ね機能は衰えていきますが、生きていく限り人間らしい生活を送りたいという希望をかなえるため、言語聴覚士はリハビリテーション室の一室で、今日もその人の人生に彩りを添えています。

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