師走の候、いかがお過ごしでしょうか。筆者は先日、電車内で乗客が嘔吐して嘔吐物がかかるという体験をしました。いやはや、これは思いがけない出来事でした。過去の記事で、冬場は特にノロウイルスなどのウイルス性の感染症が流行しやすいと紹介をしています。そんな冬に流行しやすいウイルス性の感染症からも起こり得る嘔吐。適切な処理方法についてお話を伺いました。
今回お話をお伺いした先生
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森ノ宮医療大学 医療技術学部 臨床検査学科 助教/臨床検査技師 松尾明彦 先生
京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻博士後期課程修了 (人間健康科学)。専門は臨床微生物学。京都大学医学部附属病院検査部での勤務を経て、2023年4月より現職。
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嘔吐物が原因となり、起こり得る感染症
体調が悪かったり、乗り物酔いをしたり、食べすぎたり、飲みすぎてしまったり…そんなときに嘔吐することは誰しもあり得ること。しかし、感染症に罹患している人が嘔吐した場合、その嘔吐物から周りの人に感染症が広がる可能性があることに注意が必要です。
嘔吐の原因となる微生物には、ウイルスや細菌があります。ウイルスであればノロウイルス、細菌であれば黄色ブドウ球菌、セレウス菌などが原因となります。また、乳幼児ではロタウイルスやアデノウイルスも原因となります。嘔吐物からの感染経路は、主に以下の3つです。
接触感染:感染者の嘔吐物そのもの、あるいは嘔吐物が付着した床や机など(環境表面)に触れることで、手指を介して病原体が目、鼻、口などの粘膜に付着して体内に侵入することで感染する。
飛沫感染:感染者が勢いよく嘔吐した際、嘔吐物中の病原体が小さな水滴 (飛沫) となり、半径2m程度飛散する。この飛沫を直接吸い込む、もしくは飛沫が目、鼻、口などの粘膜に付着して体内に侵入することで感染する。
塵埃(じんあい)感染:適切に処理されずに残った嘔吐物が乾燥することで塵(ちり)や埃 (ほこり) となって空気中に浮遊し、塵埃を吸い込むことで感染する。
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「うっぷ!」その後、どうする?
トイレ以外の場所で嘔吐したとき、どのように処理をしていますか?処理時は、まず自分の身を守ることが必須です。上述のとおり、そのまま放置しているとウイルス・細菌が付いたまま乾燥し、空気中に浮遊する恐れも。そのため嘔吐したあとは、感染対策に気をつけて、できる限り速やかに処理を行います。適切な処理のため、以下のものを準備しましょう。
準備物
1)使い捨て手袋
2)マスク
3)使い捨てエプロンまたはガウン (1~3をまとめて個人防護服といいます)
4)ペーパータオル (キッチンペーパーなど)
5)塩素系漂白剤 (家庭用ハイターなど)
6)水
7)バケツ等の容器
8)ビニール袋
処理方法
1)窓を開けて換気を行う。
2)個人防護服を着用する。(順序 : エプロン → マスク → 手袋)
3)塩素系漂白剤と水で、次亜塩素酸ナトリウム液(濃度0.1%)をバケツに作る。
※市販の塩素系漂白剤が5%の場合、水1Lあたりに20mL加えると0.1%の次亜塩素酸ナトリウム液が作れます。
4)ペーパータオルで嘔吐物を覆い、ペーパータオルの上から次亜塩素酸ナトリウム液をかける (嘔吐物の乾燥防止のため)。広がらないよう外から内へ集め、集めたものはビニール袋に入れる。
5)次亜塩素酸ナトリウム液をペーパータオルにしみ込ませ、嘔吐物が付着した部分とその周辺を拭く。消毒範囲は半径2m程度が目安。
6)次亜塩素酸ナトリウム液は金属を腐食する性質があるため、消毒して10分後に、拭いた部分を水拭きする。拭き取りに使用したペーパータオルはビニール袋に入れる。
7)個人防護服を脱ぐ。(順序 : 手袋 → エプロン → マスク) 手袋を外す時は素手で手袋の表面に触れないように気を付ける。個人防護服をビニール袋に入れて密封し、しっかり縛る。
8)石鹸でしっかりと手洗いを行う。
ポイントは「次亜塩素酸ナトリウム液」を使用すること
注意しておきたいのは、ノロウイルスなどの嘔吐の原因となるウイルスの多くは、消毒用アルコールの効果が低いことです。手指消毒アルコールが身近にあると「これで拭いておこう」と考える人もいるかも知れませんがNG。上述の次亜塩素酸ナトリウム液を作り、処理をしてください。その際、嘔吐物の汚れが残っていると次亜塩素酸ナトリウムの効果が弱まるので、できるだけ汚れを取り除いてから消毒を行うことがポイントです。
乳幼児は免疫力が弱く、感染症にもかかりやすいといえます。特に乳幼児がいるご家庭では上記アイテムを常備しておくと、いざという時に役立ちます。
また、調べてみると嘔吐物処理剤なるものが販売されていました。これは嘔吐物を固めて処理しやすくするグッズのようですよ。
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衣類についたときには?
衣類は嘔吐物が付着したまま洗濯機に入れると他の衣類に二次汚染が起こるリスクがあるため、洗濯前に0.02%次亜塩素酸ナトリウム液 (嘔吐物処理に使用する時よりも低濃度) に浸け置きすることが望ましいです。しかし、次亜塩素酸ナトリウムには漂白作用があります。色柄物の衣類に対して使えない場合は、85℃以上の熱湯に1分間以上浸すことも有効だそうです。(筆者もズボンを熱湯に浸してから、洗濯機で洗いました。)
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さいごに
松尾先生は「嘔吐物の処理には、アルコール消毒ではなく、次亜塩素酸ナトリウムで消毒することが適切です」と強調されています。慌てず、正しい手順で処理を行うことで、感染の拡大を防ぐことができます。いざという時に備えて処理に必要な物品を揃えておきましょう。
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【この記事を書いた人】
はくまい
美味しいごはん(とお酒)が大好き!ごはんのために働き、ごはんのために眠る!!今日もカロリーと幸せを噛みしめ、数字より気持ちで生きる30代おなご。
