手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)という病気を聞いたことがありますか。
夜中に指の痛みやしびれで目が覚める、ボタンが留めにくい、といった症状が出る病気で、実は発症している人は少なくないと言われています。 今回は手根管症候群について、どのような対処ができるかを作業療法士の先生に伺いました。
今回お話しをお伺いした人
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森ノ宮医療大学 総合リハビリテーション学部 作業療法学科 講師/作業療法士 中西一先生
滋賀医療技術専門学校作業療法学科卒業、広島大学大学院博士課程前期修了、森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科 医療科学専攻 博士後期課程(在学中)。 名瀬徳洲会病院、笠利病院、広島大学病院勤務を経て2016年より現職。 パーキンソン病に特化した危険予知トレーニングを作成中。
1. 手根管症候群とは
◆症状
親指から薬指にかけてのしびれや痛みが、特に夜間や朝方に悪化します。進行すると親指の付け根の筋肉(母指球筋)が痩せ、細かな作業が難しくなります。
パソコン作業などで手や指をよく使う方に発症しやすく、特に家事などで手をよく使う40~60歳代の女性に多いといわれています。また、ホルモンバランスの変動が大きい妊娠出産期・更年期や、糖尿病・甲状腺機能低下症・関節リウマチ・人工透析中の方が発症する場合もあります。
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◆発症のメカニズム
手の神経や腱が通る手根管と呼ばれるトンネル状の空間で、正中神経(せいちゅうしんけい ※)が圧迫されることで症状が出現します。
腱の炎症や、むくみなどでトンネル内の圧力が上がると、神経周囲の血流が悪くなりしびれや感覚低下が起こります。さらに圧力が高い状態が長く続くと、親指の付け根の筋肉がやせてつまむ力が弱くなることがあります。
発症者のトンネル内圧は、正常時の10倍以上高くなっています。手首を曲げたり反らしたりする・重い物を持つ・手を強く握るなどの動作がさらに圧力を上げることになり、症状を悪化させます。
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※正中神経:親指・人差し指・中指・薬指の親指側の感覚を伝え、親指の筋肉を動かす神経
2.悪化させないために
手首に負担をかける動作を減らし、手首の内圧を上げないようにすることが重要です。
そうは言っても、生活するうえで全く手首を曲げない・手を使わないということは難しいため、以下のような工夫ができます。
〈パソコンを使うとき〉
・前腕の下に枕を置く、手首の下に台を置く
・小さいマウスをつかう
・30分~1時間に1回休憩を入れる
※手首が水平に近い状態(曲がりが5°以内)で作業する
〈料理をするとき〉
・重たいフライパンなどの使用を控える、軽いものに変える
・包丁で硬いものを切ることを控え、フードプロセッサーなどを使う
・オープナーなど便利グッズを活用する
※手首にかかる負担を少しでも減らす
〈夜間や起床時に痛みがでるとき〉
・就寝時のみ、病院で作ってもらう装具で手首を固定する
※無意識に手首が曲がった状態が続くことを防ぐ
〈その他〉
・立ち上がる際などに手をつかないよう気を付ける
・編み物などの手首を曲げる趣味は治るまで控える、長時間続けず休憩を入れる
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【手首を固定する装具】
その人の手に合わせて作成してもらいます。
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【装具をつけたところ】
マジックテープで着脱可能で、しっかり手首を固定してくれます。
入浴や手の温冷浴で血流が改善されると、症状が軽減することもあります。 ただし、手首に負担をかけ続けていては改善しにくいので、生活環境を見直すことが大切です。
また、必要に応じて、鎮痛剤や神経伝達を改善する薬、炎症を抑えるステロイド注射が処方されることもあります。
初期に適切な対処をすることで、約3割の人は回復する可能性があるといわれています。特に、若年層は比較的回復しやすい傾向があります。
3.手術が必要な場合
1~2ヶ月上記のように安静にしても改善しない場合や、しびれや痛みが強い場合、親指の付け根の筋肉がやせてきている場合は、手根管を構成する靭帯を切断して除圧する手術が勧められます。
半年ほどで症状の回復が期待できます。ただし、圧迫期間が長かった場合など、手術後も症状が残ることがありますので、早めに病院受診をして医師へ相談することが重要です。
術後12週間程度は医師の指示のもと運動負荷に注意しましょう。12週以降は握力、ピンチ力なども回復してきます。洗濯を干す際に洗濯ばさみを使う・頭を洗う際に指先を使うなど、日常生活の中で自然に手の筋肉を使っていきましょう。痛みなど症状が強くなる場合は医師に相談しましょう。
また、下記のような運動は、術後の神経・靭帯の癒着を防ぐのに有効です。
手のひらの小さい筋肉(内在筋)や指の筋肉を効果的に動かす運動です。
各5回程度、こまめに行いましょう。
経過や状態は人によってさまざまです。必ず様子をみながら、無理をせず痛みの出ない範囲で行いましょう。
4.最後に
手根管症候群は、骨折などにより急性的に発症することもありますが、多くは慢性的に進行していきます。
悪化を防ぐには、局所的な処置だけでなく生活や姿勢を見直すことが大切です。その人の日常動作や生活環境にあわせた改善法を考え、手指・手首に負担をかけすぎないよう意識しましょう。
今出ている症状は、日々の負担に耐え続けた体からのサインです。いつも頑張ってくれている体のサインに気づき、いたわる工夫を生活の中に取り入れていきましょう。
【参考】作業療法士の仕事
作業療法士は、症状が発症してからもその人が自分らしく日常生活を過ごせるようにリハビリテーションを行うスペシャリストです。 筋肉のリハビリだけでなく、その人の生活に寄り添い、一人ひとりの「したいこと」「しなければならないこと」を深く理解し、その実現を技術・観察力・思考力で支えます。
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