医療の仕事は仕事内容や活躍の場によって多くの種類に分かれており、その数20以上にも及びます。中には一般にその魅力があまり知られていない職業もあり、今回はその1つである作業療法士の魅力ややりがいに迫ります!
今回お話をお伺いした人
森ノ宮医療大学 総合リハビリテーション学部 作業療法学科
講師/作業療法士 金森 幸 先生
国立療養所近畿中央病院附属リハビリテーション学院 作業療法学科を卒業、森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科で修士(保健医療学)を取得。社会福祉法人三ヶ山学園 こどもデイケアいずみ、大阪府立急性期・総合医療センターでの勤務を経て2022年4月より現職。
研究テーマ:発達障害の作業療法、神経発達障害児の地域生活、保育所等訪問支援における地域連携
作業療法士ってどんな仕事?
作業療法士は、生活のリハビリを担当するこころとからだのセラピストです。リハビリというと一般的に患者さんが動いたり、歩いたりするための練習を行うイメージを持たれることが多いですが、このような働きを担うのは理学療法士です。
作業療法は人々の健康と幸福を促進するために行われるものと定義されており、身体疾患や精神疾患に対して当事者がしたい生活を送れるようにするためのリハビリを、作業を用いて行います。ではリハビリに使われる作業にはどのようなものがあるかというと、実は生活の中で行うすべての行為が作業です。
絵を描くこと、料理をすること、スポーツをすることなど患者さんの趣味や好きな活動を治療の道具として使い、「楽しみながらいつの間にかリハビリをしている」状態に持っていくモチベーターの役割を果たせるかどうかも作業療法士の力の見せどころです。
幅広い領域のリハビリを行います!
作業療法士は4つの領域に分かれて専門性を活かしながら仕事を行います。
1つ目は、身体障害領域。作業療法士の半分以上が属する最もメジャーな領域です。病気や怪我・事故などによる身体の麻痺などの運動機能の低下や高次脳機能障害という脳機能の低下に対するリハビリを行います。活躍の場は病院や訪問リハビリテーション施設、デイサービス施設など多岐にわたります。
2つ目は、精神障害領域。精神障害を持ち、日常生活に困難を抱える当事者のリハビリを行います。活躍の場は、病院や訪問リハビリテーション施設、就労支援を行う福祉施設など。
3つ目は、発達障害領域。脳性麻痺や自閉症などの発達障害や小児疾患を持つ子どもに対してリハビリを行います。活躍の場は、病院、訪問リハビリテーション、児童発達支援施設や放課後等デイサービス、支援学校など。最近では普通学校でも作業療法士が求められる機会が増えています。
4つ目は、高齢者領域。加齢により身体・認知機能が低下した高齢者に対してリハビリを行います。活躍の場は、訪問リハビリテーション施設やデイサービス、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど。その人らしい最期の迎え方を考えたターミナルケアにも関わります。
当事者の中には複数の施設に通ったり、行政のサポートを受けながら生活を送ったりしている方も多いです。そのため作業療法士は、介護保険や各自治体のサポートなど制度に対する知見を深め、医療系他職種やケアマネージャー、保健師、ソーシャルワーカー、患者さんが通う他施設・病院・教育機関などと連携を取ることで、当事者が多くの選択肢から自身の状況に適した活用方法を選び、よりよい生活を構築できるよう支援しています。
AIが発展してもなくならない仕事!
急スピードで進化を遂げるAIの台頭により、現代に存在する仕事の多くは近い将来AIに取って代わられるといわれています。しかし研究機関が行った調査によると、作業療法士は今後AIが発展してもなくならない仕事として上位にランクイン!それもそのはず、AIはインプットした多くの情報を統合し一般化することで結論を導きますが、作業療法士の働きはそれとはまったく異なります。思考や生活習慣、価値観など一人ひとり違うオリジナリティを持つ多くの当事者に対して、それぞれに対応した生活・作業を考えリハビリを行うのが作業療法士であるため、多様性に対応するのが苦手なAIにはまだまだ追いつけない分野です。
こんな人に向いている医療職です!
作業療法士は当事者のその人らしさに寄り添いながらリハビリを行うため、人に興味があり、人の価値観や思いに関心が持てる人に向いています。何気なく日常生活を送っていると自分と似たような人とばかり関わってしまいがちですが、全く違う境遇や文化を柔軟に取り入れることを楽しめる人は、作業療法士の素質があるといえます。
また他の人に関心があるだけでなく、自分の内面についても冷静に分析し、自身が持つ価値観を理解することができるかどうかも重要な要素です。作業療法士は作業を用いてリハビリを行うのが仕事ですが、作業療法士自身の立ち振る舞いも実は患者さんに大きな影響を与えています。自分の当たり前を押し付けずニュートラルに患者さんに対応することが相手の心を開くカギとなり、よりよい作業療法につながります。
まとめ
今回は“こころとからだのセラピスト”作業療法士を紹介しました。まだまだ認知度が低い医療職ですが、学校現場でダイバーシティ尊重の考え方が浸透してきていること、精神疾患を持つ当事者の方々を地域で見守る動きが出てきていることなどから、今後より一層社会に根付いていく見込みのある伸びしろの大きい仕事です。
社会的な認知度が高まることで作業療法を受ける患者数が増加し、より多くの人々が自分らしい生活を送れるようになることが期待されています!