健康的な生活を送るためには、バランスの取れた食事が欠かせません。
しかし、現代社会では、忙しさや食の選択肢の多様化により、健康を意識しながらも自分の好きなものを楽しむことが難しくなっています。また、病やその治療の過程で必要な栄養や、その摂取方法は千差万別。そこで重要な役割を果たすのが管理栄養士です。
その人に応じた指導を通じQOL(クオリティオブライフ/生活の質)の向上をめざす、管理栄養士の仕事内容や実際の事例などについて、相愛大学の先生にお聞きしてきました。
今回お話をお聞きした方
(写真左)
相愛大学 人間発達学部 管理栄養学科 学科長・教授/管理栄養士 竹山 育子 先生
大阪府立大学(現:大阪公立大学)大学院修了病院管理栄養士を経験後、独立。大阪府立成人病センター研究所にて大腸がん予防の研究プロジェクトチームで研究活動をするとともに、開業栄養士としてクリニックでの栄養管理、栄養指導、地域活動として幼稚園から高校生、一般成人を対象とした栄養改善活動に取り組む。病院、内科クリニック、透析サテライトなどで生活習慣病、腎不全、難病の栄養指導に携わり、栄養管理の重要性を学ぶ。2012年より現職。
(写真右)
相愛大学 人間発達学部 管理栄養学科 博士(歯学)、相愛大学総合研究センター長・教授/品川 英朗 先生
東京医科歯科大学(現:東京科学大学)歯学部卒業、同大学院医歯薬総合研究科で博士号(歯学)を取得。東京都老人総合研究所、イリノイ大学、メリーランド大学にて博士研究員として勤務した後、大阪大学招聘研究員、大阪府立大学(現:大阪公立大学)客員研究員、東大阪大学短期大学部准教授を経て、2016年4月より現職。専門は、顎顔面矯正学およびライフステージ栄養学。
管理栄養士と栄養士の違いとは?
管理栄養士と栄養士は、似ているようで全く異なる役割を持っています。ざっくりまとめると、以下の違いがあります。
栄養士:主に健康な人を対象に栄養管理を行い、学校給食や企業の社員食堂などで活躍。
管理栄養士:傷病者を含む幅広い対象に栄養指導を行い、病院・在宅介護・食品開発などで活躍する。国家資格。
管理栄養士は、厚生労働省が定める「栄養摂取基準」を満たす食事の提供や指導、個々の健康状態に応じた栄養管理を行うなど、専門性の高い業務を担当します。
栄養摂取基準は5年に1回見直され、そのたびに指導内容が変わるため、資格取得後も知識のアップデートが欠かせません。身近な例だと、食塩の摂取基準は更新のたびに0.5gずつ下がっており、2025年現在の基準は男性7.5g・女性6.5g、高血圧や腎臓疾患など塩分制限がある場合は6g/日未満です。食パンにマーガリンを塗っただけで1gになることを考えると、これがどれだけ難しい数値かがお分かりいただけると思います。
商品開発における管理栄養士の役割
近年、管理栄養士が食品開発に関わるケースが増えています。その背景には、「健康に良い食品=美味しくない」というイメージを払拭し、QOLを向上させる食品開発を目指す動きがあります。
例えば、アルコールやスイーツは「健康に悪い」とされがちですが、食の楽しみを実現することを大切に、管理栄養士は栄養価と美味しさの両立を考えながら、罪悪感のない商品開発を支援しています。
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管理栄養士の活躍の場
管理栄養士は、食品開発以外にもさまざまな分野で活躍しています。一例を紹介しますが、その幅広さに驚かされます!
病院
患者さんの食事管理を行い、病状や栄養状態に合わせた食事提供を実施。嚥下(飲み込み)の問題がある患者さんには、言語聴覚士と連携しながら、適切な形状の食事を提案する役割も担います。
学校、子ども食堂
学校では「栄養教諭」として給食の献立作成や食育指導を担当。食の大切さや文化を伝える役割を果たします。また、さまざまな事情で十分にご飯を食べることができない子どもを対象に、子ども食堂で栄養バランスの良い食事を提供し、セーフティーネットとなることもあります。
スーパーマーケット
食品の栄養価を考慮した商品開発や食品衛生管理を行います。
薬局
調剤に来た方への栄養指導や、サプリメントのアドバイスを実施。
企業
社員食堂や病院などに給食を提供する会社で献立作成や栄養管理を行います。
こんな対象者も!実際の事例
近年、すべての栄養素が含まれた食品が、スーパーやコンビニの棚に目立つようになってきました。過去に竹山先生が担当された対象者にも、『ドッグフードやキャットフードがあるのに、なぜ人間には「これだけ食べればOK」という食品がないのか』と相談された方がいたそう。
そこでその方の食習慣を見てみると、「朝はパンとコーヒー、昼はカツカレー大盛り×3杯、夜も昼と同じようなメニューを繰り返しがち」と、著しく偏った食生活を送っていることが分かり、とても驚かれたそうです。
管理栄養士は、こうした人それぞれの背景を踏まえながらも、「過度に制限するのではなく、バランスを取りながら楽しめる食事」を提案します。
まとめ
管理栄養士は、病院や学校だけでなく、食品開発や企業の健康管理など、幅広い分野で活躍しています。
健康的な食事は「美味しくない」というイメージが強いですが、管理栄養士の視点を活かせば、美味しさと栄養のバランスを両立させることが可能です。
さまざまな事情を鑑みた上で適格なアドバイスをいただけるので、食について困ったことがあれば、ぜひ管理栄養士に相談してみてはいかがでしょうか。
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