「寿命を決める臓器」ともいわれる腎臓。生命活動の大きな役割を担っているこの臓器は不可逆性の臓器ともいわれ、残念なことに一度悪くなると回復しないそう。そして驚いたことに、健康な人でも1年で1%ずつ腎機能が低下してしまうのだとか。腎機能が低下した際行う透析治療は、一昔前までは膨大な費用がかかる上に生存率も低いなどの否定的な印象を持たれていましたが、医療技術が進歩した現代は、治療や費用も改善されイメージも変わってきています。今回はそんな透析治療にスポットを当て、専門家である辻先生にお話をお聞きしました。
今回お話をお聞きした人
森ノ宮医療大学 医療技術学部 臨床工学科 教授 / 辻 義弘先生
兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科 博士後期課程修了(博士・応用情報科学)。臨床工学技士として血液浄化療法に従事。淀川キリスト教病院、桃仁会病院を経て、2018年4月森ノ宮医療大学 保健医療学部 臨床工学科 講師、2023年4月から同大学教授。
透析とは
透析とは腎臓の機能が低下した患者さんの血液を浄化する治療法です。本来、腎臓は体内の老廃物や余分な水分、電解質のバランスを調節する役割を担っています。しかし、腎臓病などで腎臓が正常に働かなくなると、体内に有害な物質が蓄積し、健康に影響を及ぼします。透析が必要になる主な疾患には、慢性腎臓病である糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症などがあり、移植をしない限り透析をし続ける必要があります。
透析の種類
透析には大きくわけて2つ方法があります。
1、血液透析
透析器(人工腎臓)を通して、血液中の老廃物や余分な水分を除去し、きれいになった血液を体内に戻す方法です。病院や透析クリニックで週に3回程度(1回3~5時間)行います。透析治療患者の約97%が血液透析を行っています。
2、腹膜透析
腹部にカテーテルを埋め込み、腹膜に透析液を入れ貯留させることで体内の老廃物や余分な水分を除去し、廃液する方法です。1日4~5回の透析液交換が必要となります。自宅で行えるため通院の負担は少ないですが、液交換を欠かさず行わなければならず、衛生面への注意も必要なため、自己管理が大変というデメリットもあります。また腹膜透析は永続的に行えるというわけではなく、透析の負担で腹膜が劣化してしまうため、最終的に血液透析に移行する流れになります。
透析の費用
透析治療の医療費は1カ月でおよそ30~50万円、年間だと600万円程度かかるといわれています。このような高額な医療費に対して、日本では医療保険の特例制度や医療費の公的助成制度が確立されています。
医療保険の長期高額疾病(特定疾病)
厚生労働大臣指定の特定疾病(例:透析が必要な慢性腎不全)で長期にわたり高額な医療費が必要な場合、手続きをすれば自己負担額が月額1万円(人工透析が必要な70歳未満の上位所得者は月額2万円)となります。
重度心身障害者医療費助成制度
透析治療を受けることになった患者さんは、自治体に申請すれば身体障害者手帳の交付が受けられ、1、3,4級のいずれかに認定されます。透析が必要な場合は1級に認定されることが多く、医療費の助成を受けられます。(自治体により助成対象は異なるためご確認ください)
障害者自立支援医療制度 (更生・育成医療)
身体障害者手帳の交付を受けた人であれば国の助成制度が活用できます。自立支援医療機関として指定を受けている医療機関での治療が対象ですが、医療費の一部が助成されます。
腎臓を守るために気を付けること
① 高血圧
腎機能が低下する主な原因は高血圧です。高血圧になると、血液をろ過する糸球体に負担がかかり、腎臓の血管に動脈硬化(細動脈硬化)が起こります。その結果、腎臓の細胞が変化し機能が低下します。高血圧にならないためには、塩分の過剰摂取を避け食生活を見直すこと、また適度な運動をし、規則正しい生活を心がけましょう。
② 糖尿病
透析患者の約40%は糖尿病患者といわれています。腎臓は毛細血管が集まった臓器で、糖尿病により血管が脆くなることで腎機能の低下を招きます。糖尿病にならないためにも、適度なエネルギー量で、バランスの良い、規則正しい食事を心がけましょう。
③ 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
非ステロイド性抗炎症薬は痛み止めや解熱剤として広く使われていますが、長期間または高用量で使用すると腎臓への血流が減少し、急性腎障害や慢性腎臓病の進行リスクが高まります。辻先生が授業を担当している学生の中にも、常備薬として携帯し、頭痛や腹痛など少しでも痛みがあれば服薬するといったような人が増えているそうです。若者でも、ある日突然急性腎不全を発症…なんてこともあるため、服薬頻度や量には十分注意してください。
➃ 定期的に健康チェックを受ける・血液検査の数値を確認
人間ドックなどで血液検査を受けた際はGFR(糸球体濾過量)という腎臓の働きを知る指標をチェックしてください。GFR値は、腎臓の機能を示す値で、腎臓の糸球体が1分間にどれくらいの血液をろ過して尿を作れるかを表します。正常値は100~120 mL/分/1.73m2ですが、この値が60 mL/分/1.73m2 未満になると、腎機能の低下が疑われ、慢性腎臓病(CKD)の診断を受ける可能性があります。
辻先生からのメッセージ
腎臓は沈黙の臓器ともいわれ、症状が進行していても自覚症状がほとんどありません。皆さんに伝えたいのは、健康診断をないがしろにせず、結果が悪ければ必ず専門医(腎臓内科)を受診してほしいということです。また、通院が必要となった場合も途中でやめないで通い続けてください。今の医療は、腎機能が低下してしまっても、薬物療法・食事療法・運動療法を行い、しっかりと治療すれば、透析導入を遅らせることができます。腎臓の機能を保つためにも、若いうちから生活習慣に気をつけましょう。