未来の最先端医療~大阪・関西万博でも注目の「再生医療」に迫る~

2025.01.06

今、医療現場で最も注目されている最先端医療分野「再生医療」。実は、来年開催される大阪・関西万博でも、未来の再生医療について「大阪ヘルスケアパビリオン」での展示が予定されています。ケガや病気に用いる治療と思われる人も多いですが、今や美容分野でも広く使用されており、より身近で手軽に利用できる未来がすぐそこまでやってきています。今回は、大阪ヘルスケアパビリオン「ミライの医療」関連リンクのディレクターとしても活躍されている冨田先生にお話を伺いました。

大阪ヘルスケアパビリオン https://2025osaka-pavilion.jp/

今回お話をお聞きした人

森ノ宮医療大学  総合リハビリテーション学部 言語聴覚学科
森ノ宮医療大学大学院  保健医療学研究科 看護学専攻後期課程
教授 冨田 哲也 先生
大阪大学医学部医学科卒業後、大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了(博士)。大阪大学医学部附属病院整形外科研修医、行岡病院、大阪厚生年金病院(現:JCHO大阪病院)整形外科、大阪大学整形外科助手、米国Stanford大学研究員、大阪大学大学院医学系研究科運動器バイオマテリアル学准教授を経て、2022年4月森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科看護学専攻後期課程教授に就任。2021年より大阪・関西万博大阪ヘルスケアパビリオン推進委員ディレクターを務め、ミライの医療を担当。

再生医療とは?~「自己修復力」を引き出す治療~

再生医療とは、ケガや病気等で機能障害や機能不全になった組織や臓器の機能を取り戻すために、体がもっている自己修復力を引き出し、その機能を回復させる治療のことです。日本では2014年に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行され、再生医療を行う際には国への申請、審査会での承認が義務づけられました。このような法律は日本にしかなく、日本で行われる再生医療は安全性や質が担保された上で行われています。今はまだ一部を除き自由診療ですが、今後さらに研究が進み、効果が承認されれば、保険診療として多くの人が利用できる治療法になると期待されています。

再生医療の種類

現代の再生医療は大きく2つの種類にわけられます。

【幹細胞を用いた方法】

機能不全となった箇所に培養した同細胞を入れることで再生を促します。使用される幹細胞は「多能性幹細胞」と「組織幹細胞」にわけられ、特に組織幹細胞を用いた治療は再生医療の中で最も多く用いられています。
※幹細胞:自己修復機能をもち、様々な細胞に分化する細胞
※分化:細胞が分裂する際、組織や臓器などの機能を持った細胞へ変化すること

①多能性幹細胞
特徴:増殖・分化に制限なし。代表的なものとしてiPS細胞が挙げられる。

iPS細胞(人工多能性幹細胞)
〈特徴〉
・他人の皮膚などから採取した細胞に、疾患に応じた特異的な遺伝子を導入し、人工的に作成した多能性幹細胞
〈治療法〉
・疾患に応じたiPS細胞を生成・培養し、対象部位に戻す
〈メリット〉
・どんな細胞にも変化できるため、組織幹細胞で対応できない症例や治療法がない疾患への活用が期待される。
〈デメリット〉
・他人の細胞の使用、遺伝子操作を行うため、拒絶反応や予期しない細胞変化、がん化のリスクがある。
・現時点では作成する費用が非常に高い。

②組織幹細胞
〈特徴〉
・増殖、分化に制限あり
〈治療法〉
・自身の脂肪や骨髄から取り出した幹細胞を培養し対象部位に戻す。
〈メリット〉
・自分の細胞を使用するため、拒絶反応がなく、がん化リスクもない。
〈デメリット〉
・多能性幹細胞と比べると、分化できる細胞が限られており、疾患が限定される。
・保険適応ではない(100%自己負担)。

【血液を用いた方法】

PRP (platelet Rich Plasma) 療法
〈治療法〉
・自身の血液から血小板を抽出し対象部位に戻す。傷んだ組織を修復する働きを持つ血小板を濃縮して戻すことで、自身の自己修復力を引き出すことができる。近年、整形外科領域ではスポーツ外傷、変形性膝関節症等、幅広く用いられている。
〈メリット〉
・自身の血小板を使用するため、拒絶反応がない。
・血液採取で治療できるため患者の負担が少ない。
・30分程度で抽出できるため即日の治療が可能。
・幹細胞治療に比べ費用が安い
〈デメリット〉
・変形性膝関節症では幹細胞治療に比べ、効果が弱い。

冨田先生が取り組む治療と研究

今や多くの領域で注目されている再生医療ですが、冨田先生が行っているのは整形外科領域。中でも、日本人の約4分の1、40歳以上の女性の3人に2人が発症するという変形性膝関節症。これは膝の軟骨のすり減りにより関節が変形してしまう症状で、進行すると歩行困難になることも。これを解決すべく、取り組まれているのが組織幹細胞やPRPなどの再生医療です。冨田先生の治療で、歩行困難だった患者さんが歩けるまでに回復した事例も。先生いわく薬物治療や手術しかできなかった症状に、再生医療という選択肢が増えたことは、患者さんの希望になると考えているとのこと。ただ、現在の膝の再生医療は、軟骨の再生まで至っておらず、炎症を抑えることで症状を改善しているのが現状。再生医療の良い面ばかりを見るのではなく、デメリットも理解した上で、自分にあった治療法を選択してほしいとおっしゃっていました。また、未来の再生医療として冨田先生が行っている研究の1つにデザイナーズセル」というものがあります。これは組織幹細胞に遺伝子を組み込むことにより、多くの症状に適応した治療が行えるというもの。自身の細胞であるため拒絶反応やガン化のリスクもありません。もしこれが実現すれば、膝の軟骨の再生や、血管の動脈硬化の改善など、あらゆる症例に役立ちます。

まとめ

日本での再生医療に関する法律が制定されはや10年。冨田先生いわく、これからの再生医療はさらに速度を上げて進歩し、10年ないしさらに早い段階で新しい治療法が実現できる未来がやってくるとのこと。自分の組織から作ったマイiPS細胞や組織幹細胞をセルバンクに預けておくことで、必要な際、コンビニに行くような感覚で手軽に再生医療が受けられる!といった社会の実現も夢ではないそう。「顔のしわが気になるから。」「ちょっと関節が痛むから。」そういって手軽に再生医療が受けられるなんて、なんだがワクワクしますね!

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