すっかり寒くなり、冬の到来を感じるこのごろ。クリスマスや年越し、ウィンタースポーツなど、楽しいイベントが盛りだくさんですが、この時期、気を付けなければならないのは風邪やインフルエンザなどの感染症です。一人さみしくベッドで休養…なんてことにならないよう、感染症に負けない体づくりについて公衆衛生学に詳しい石﨑先生にお話を伺いました。
今回お話をお聞きした人
森ノ宮医療大学 看護学部 看護学科
講師 石﨑 美保 先生
千葉大学看護学部看護学科を卒業後、看護師、保健師としての実務経験をつみ、青年海外協力隊(チリ派遣)、NGOスタッフ(東ティモール派遣)として開発途上国支援に従事。その後、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻修士課程を修了し、現在は同博士後期課程に在籍中。2024年より現職に就任し、疫学、公衆衛生看護学、国際保健を専門としている。研究分野として、大規模データベースや公的統計データの分析、行動変容に向けた保健指導、生活困窮者支援に取り組んでいる。
感染症とは?
感染症とは病気を引き起こす微生物が、体内に侵入して症状がでる病気のことです。病原微生物は大きさや構造によって、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫などに分類されます。国の感染症対策として「感染症法」が定められ、症状の重さや感染力によって一類~五類の5つに分類されています。数が小さくなればなるほど、その重篤性が高くなり、致死率も高まります。冬に流行る季節性のインフルエンザは五類に分類されますが、ほとんどの風邪はこの分類には入らないウイルスによるものです。
感染が成立するための3つの要因~疫学のトライアングル~
感染症は、ウイルスや細菌など病気の原因となる「病因(感染源)」、感染経路や気温・湿気などの「環境(感染経路)」、そして私たちの身体状態(免疫力)である「人間(宿主)」という3つの要因が全てそろうことで引き起こされます。この3つを疫学のトライアングルといい、1つ欠けても感染は成立しません。つまり、感染症にかからないためには、この3つに対策をし、どれか1つでも成立しないようにすれば良いのです。感染症の流行時は、病気を引き起こすウイルスや細菌等の「病因」に出くわす機会が増えています。この時期に感染症にかからないためには、「病因(感染源)」への対策として換気、「環境(感染経路)」への対策として手洗いや加湿をしましょう(空気中の水分が多ければ、ウイルスや細菌は水分とともに落下します)。そして、忘れてはならないのが「人間(宿主)」の対策。みなさんは感染対策として自身の免疫力のことを気にしていましたか? 自分自身の免疫力が大丈夫かどうか、少し考えてみましょう。
菌の侵入を防ぐ強い味方~正常細菌叢~
ヒトの体(皮膚、口腔、鼻腔、消化器官等)の表面には数多くの細菌が存在しています。このような体に常住する無害な細菌の集団を正常細菌叢(せいじょうさいきんそう)といい、病気を引き起こす悪い菌の侵入を防いでいます。映画館の席をイメージするとわかりやすいのですが、悪い菌が侵入してきた際、すでに無害な細菌が席を埋めていれば、座る余地がないですよね。このように正常細菌叢は皮膚や粘膜の表面に存在し、私たちの身体を守ってくれています。正常細菌叢の中で、腸管に存在する細菌叢を「腸内フローラ」と呼びます。腸内フローラは、免疫力を高め、ビタミンB群などを産生し、コレステロールを低下させるなど、人体にとって大変重要な役割を担っています。バランスの良い食事や規則正しい生活習慣は腸内フローラを好ましい状態に保ち、免疫力も高めてくれます。このように腸内フローラや皮膚・粘膜の正常細菌叢は、感染症を予防するためにとても重要です。私たちはこれらの細菌を同居人として養い、協力して健康を守っていくことが大切です。
体を守る免疫力を高めよう
免疫力を高めるには、規則正しい生活習慣、十分な睡眠、適度な運動、そして、ストレスをため込まないことが大切です。石﨑先生いわく、自分自身がストレスをため込んでいることにさえ気づいていない人も多いとのこと。ストレス過多における身体症状やストレス発散法などを認識し、ストレスを意識的にマネジメントすることはとても重要です。良い生活習慣は免疫力を高めるだけでなく、心身を健康に保ち、仕事や勉強、人間関係にも良い影響を与えてくれます。今すぐに、できるところから始めてみましょう。
まとめ
冬は風邪やインフルエンザなど季節性の感染症が流行しやすい時期ですが、感染の3要因を意識しながら予防することで感染リスクは減らせます。健康的な生活により免疫力を高め、感染症に負けない体づくりをしましょう。さあ、本格的な冬がやってきます!ウイルスや菌に負けず、この冬を大いに楽しみましょう。あ、そうそう、アルコールの過剰摂取は胃の粘膜防御が壊れてしまうそうですよ…年末年始のお酒の飲みすぎはほどほどに(^^)