パーキンソン病と聞くと、画家の岡本太郎さんやタレントのみのもんたさん、元ボクシング世界チャンプのモハメッド・アリさん、映画「Back to the Future」で有名なマイケル・J・フォックスさんなど、多くの著名人が罹患されたことで、その名を知った人も多いのではないでしょうか。
一昔前は、「発症すると10年後には寝たきりになる」と言われていた病ですが、その原因や最新の治療法などを、パーキンソン病のリハビリテーションを専門に研究されている作業療法士の橋本先生に聞いてきました。
今回お話をお伺いした人
森ノ宮医療大学 総合リハビリテーション学部 作業療法学科 教授/橋本 弘子 先生
藍野医療福祉専門学校作業療法学科卒業後、大阪府立大学大学院総合リハビリテーション研究科修士課程、同博士課程修了(博士)。精神科病院、藍野大学を経て2016年より現職。「ニューロダンス研究会」代表として、さまざまな疾患(障がい)に合わせた研修会を実施している。
パーキンソン病の原因・症状
パーキンソン病は、脳の中にある黒質という部分が変性することで発病します。黒質は運動にかかわる神経伝達物質(以下、ドパミン)をつくり、脳内の情報伝達を行っていますが、黒質の変性によりドパミンの産出ができなくなると、運動機能や思考・判断といった認知機能、うつのような精神症状が現れ、日常生活に影響がおよびます(下表1)。
認知機能障害は本人が気付きにくく、橋本先生が過去に担当した患者さんでは、行動抑制が難しくなることで、株取引でダメだとわかっている株を購入してしまい大損してしまう男性や、買い物を止めることができない女性などの事例もあったそう。
さらにドパミンが減少することで、うつ症状や意欲の低下がおこり、活動性が低下します。
このように、さまざまな生活のし辛さが出現しますが、最近では服薬とリハビリ、生活の工夫で寿命を全うすることができるようになったため、この病気が直接の原因で亡くなることはありません。
どんな人に多い?
比較的、高齢者に多く見られ、65歳以上では100人に1人の確立といわれています。男女別にみると50歳未満の発症率は大きく変わりませんが、80歳を超えると女性よりも男性で発症率が1.6倍以上高くなります。また、典型的なパーキンソン病では遺伝による影響は少ないと考えられており、誰でも罹患する可能性があります。
残念ながら現在の医学では、効果的な予防方法がないため早期発見が大切です。パーキンソン病の特徴として、急に発病するのではなく10~15年前から症状(前駆症状/下表2)が現れてきているといわれています。
ところが、腕が痛い・肩こりといった症状はよく見られるものなので、はじめは整形外科などにかかるも何年も改善せず、何年か経ち他の症状も出始めてから神経内科で精密検査を受け、パーキンソン病と診断されることも多いそう。心配しすぎるのはよくありませんが、あまりにも症状が改善せずに長く続く場合は、他の科を受診することを検討してください。
治療方法
脳内のドパミンが不足することが原因のため、不足しているドパミンを補給する薬や、ドパミンが働きかける部分を刺激し、ドパミンが分泌されたのと同じ反応を引き起こす薬を投与することで改善を図ります。また併せてリハビリテーションにより動きにくさを改善したり、動きを何度も練習して動作を習得したりすることも。服薬とリハビリテーションのほかに脳深部刺激療法(DBS)という、脳内に電極を埋め込み電気刺激でパーキンソン病の症状を抑える手術もあります。
自身の状態にあわせて医師と相談しながら病気や薬の副作用を適切にコントロールすることで、これまでどおりの生活スタイルを長く続けることが可能です。
なおパーキンソン病はヤール重症度(パーキンソン病の重症度を表す尺度で、Ⅰ~Ⅴ度まである)Ⅲ度以上になると特定疾患の認定を受けることができ、認定されると医療費が一部助成されます(特定疾患に認定されなかった場合でも高額療養費制度による助成を受けることができます)。ヤールⅣ度程度だと身体障害者手帳1~2級に認定される可能性もあり、医療費の自己負担分、車いすなど器具の付与、公共交通機関の運賃割引などのサービスを受けることができます。
また、40歳から「介護保険」のサービスを受けることができるほか、障害によって「障害年金」「特別障害者手当」も受給できるため、お住まいの自治体に相談してみましょう。
橋本先生のニューロダンス
実はパーキンソン病のリハビリの一つとして、ダンスがあります。
患者さんは運動機能や認知機能の低下により、これまで無意識にできていた動作(歩く、箸を使うなど)や、2つのことを同時に行う動作(ドアを開けながら足を出す、両手でペットボトルを開けるなど)などが困難になります。
ダンスはこれらの困難に対し、音楽やリズムにあわせて身体を動かし、初めての動きや手と足の違った動きを記憶して踊り、様々なステップに対応するためバランス機能向上に適しているため、効果的であると考えられています。さらに踊ること自体の楽しさも、うつ症状に効果的だと言われています。
橋本先生はこの分野を専門的に研究されており、パーキンソン病患者のための「パーキンソンダンス」を日本各地で実施されています。病気の人も、そうでない人も楽しめる内容となっているので、興味のある方はぜひご覧ください。
踊るリハビリテーション!「ニューロダンス」の取り組み(一般社団法人 日本作業療法士協会)
まとめ
パーキンソン病は高齢の方に多く見られる病のため、今後の日本で今よりも罹患者数が増えると予想されています。ただ文中でご紹介したように、薬やリハビリによりある程度コントロールができ、通常の加齢による変化と変わらない症状も多くあります。また今後はiPS細胞の研究が進むことで、根本的な治療方法が確立される可能性も。
過度に恐れすぎず、人生を楽しむことを考えることで、脳内のドパミンの分泌を促すことが肝要です。病気の有無にかかわらず、一度しかない人生を全力で楽しむ気持ちが何よりも大切です。