クルマ社会を生きる現代人に必要な「運転終活」とは?

2024.06.10

私たちの生活に欠かせない移動手段であるクルマ。通勤やお出かけ、家族の送迎など、自動車運転が日々のルーティンになっている人は非常に多く、私たちを自由にさまざまな場所に連れていってくれるクルマは人生を豊かにしてくれます。

しかし一方で、自動車運転には交通事故の危険性が伴うもの。特に加齢に伴い身体機能・認知機能が衰える高齢ドライバーは事故を起こす危険性が高く、行政からは積極的な免許返納が呼び掛けられています。

今回は、高齢ドライバーが納得して免許返納を行うための運転終活についてご紹介します。

今回お話をお伺いした人

森ノ宮医療大学 作業療法学科 助教/作業療法士 鍵野 将平先生

大阪府立大学総合リハビリテーション学部卒、大阪府立大学大学院で修士号(保健学)を取得。琴の浦リハビリテーションセンターで作業療法士として勤務後、20224月より現職。高齢者・障害者の自動車運転と作業療法について研究しており、高齢者対象安全運転イベントでも講師を務める。

メリットだけじゃない⁈ 免許返納の真実

高齢ドライバーによる自動車事故が立て続けに報道されることによって、急速に社会に浸透した免許返納。高齢の家族が交通事故を起こすんじゃないかと心配で、今すぐにでも免許返納させたい!と思っている方も多いのではないでしょうか。

でも実は、免許返納はメリットばかりではありません。クルマが欠かせない地域に住む高齢ドライバーは、移動手段を奪われることによって、趣味や家族の送迎などの日々の生きがいを失ってしまうことがあります。さらに、病院に行ったり、ちょっとした用事をするのにも周囲の助けを借りなければならなくなります。するとどうでしょう、免許を返納した高齢者は家にこもりきりになり、何事にも積極的な姿勢が見られなくなります。実際に、免許返納を行った高齢者の介護率や死亡率は優位に上昇しています。

高齢ドライバーに対して、ただやみくもに免許返納を促したり、車を取り上げることは、かえって悪影響を及ぼすこともあるため、時間をかけて「運転終活」を行っていくことが非常に重要です。

 

免許返納をゴールに!段階を踏んだ「運転終活」のススメ

「運転終活」は、運転免許返納をゴールにした自動車運転卒業までのあゆみです。そのため、家族や周囲の方々が最初にすべきなのは、高齢ドライバーのこれまでの運転経験を振り返り、現状安全運転の行動がきちんととれているか確認すること。高齢ドライバーが感じる自動車免許の必要性に寄り添うことで、感情を逆なでせずに話を進めることができます。『自分は安全に運転できている』と思い込んでいる方も多いので、高齢者向けの安全運転イベントに参加してみるのもいいですね。このようなイベントでは、ドライビングシミュレーターを使って運転脳年齢の診断ができたり、自動車運転に必要な首の回転、視野の広さのセルフチェック、高齢ドライバー向けの体操を実施しています。

現状を把握できたら、高齢ドライバーが感じている免許返納のネックを取り除いていきましょう。まず移動の不便さに対しては、別の移動手段を提案するのがおすすめ。近年、オンデマンドバスやタクシー、ライドシェアなど、自分で運転することなく好きな場所に移動できる移動手段が急速に発達しています。これらを活用すると、自家用車なしでも普段と変わらない生活が送れるかもしれません。また電動車いすやシニアカーなど、歩道を通れるパーソナルモビリティも成長が著しい分野です。『シニアカーは見た目が良くないので抵抗がある』という高齢者も多いですが、最近出ているものは近未来感があってかっこいい見た目のものが多いため、一度見に行ってみるとイメージが変わるかもしれません。クルマ以外の交通手段を試すきっかけとしては、自治体が発信しているノーマイカーデーを活用してみましょう。ノーマイカーデーに車以外のさまざまな交通手段を利用し、それ以外の日には自動車に備わった最新技術を活用しながら自分の能力に応じた安全運転をすることで、段階的に運転免許返納への抵抗を減らすことができます。

また、『身分証になるから運転免許証を手放したくない』という高齢ドライバーも意外に多いです。そんな方は、免許返納後に運転経歴証明書を発行すれば大丈夫。運転免許証と同様に身分証として活用することができます。

 

まとめ

鍵野先生によると、『地域公共交通は、使って育てないと消えてしまうもの』とのこと。その言葉通り、日本国内では、需要が減少した地域のバスや電車は、次々に沿線の廃止や縮小が進められています。

自動車を運転するドライバーなら誰しも、いつかは課題になる運転免許の返納。まだまだ自分には関係ないと思っているあなたも、まずは「地域公共交通を使って、育てる」ことから第一歩を踏み出してみませんか?

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