近年メディアでよく取り上げられている「高齢者の運転による自動車事故」。家族や自身が高齢ドライバーのため他人事とは思えない!という方も多いのではないでしょうか。
今回は高齢者・障害を持つ方の自動車運転を研究している作業療法士が、高齢者が交通事故を起こすさまざまな原因についてお伝えします。
今回お話をお伺いした人
森ノ宮医療大学 作業療法学科 助教/作業療法士 鍵野 将平先生
大阪府立大学総合リハビリテーション学部卒、大阪府立大学大学院で修士号(保健学)を取得。琴の浦リハビリテーションセンターで作業療法士として勤務後、2022年4月より現職。高齢者・障害者の自動車運転と作業療法について研究しており、高齢者対象安全運転イベントでも講師を務める。
交通事故の年齢別発生率はU字曲線!高齢ドライバーに多い交通事故は?
年齢別で見たときに特に交通事故を起こす可能性が高いのが、免許取りたての若年層と高齢者層。どちらもアクセルとブレーキの踏み間違えによる事故が多いです。高齢者が特に事故を起こしやすい場所は駐車場で、1度ぶつかった後止まることができず、人や建物を巻き込む大きな事故につながることも。2019年に発生し、社会に衝撃を与えた「東池袋自動車暴走死傷事故」をきっかけに、高齢ドライバーの免許返納が呼び掛けられるようになり、メディアで高齢者の運転による交通事故が取り上げられることが増えました。
本人は気づいてなくても...加齢に伴う運転に必要な身体機能の低下
自動車運転時に必要な情報の約90%は、視覚情報です。加齢に伴い、いわゆる老眼の症状が現れることは知られていますが、実はそれだけではなく、視野が狭くなったり、色や明るさに対する見え方の変化も生じています。視野が狭まると、運転時に周囲の状況把握が困難になりますし、色や明るさに対する見え方の変化が生じると、西日がきつい夕方の眩しさに対応することが難しくなりますが、本人は症状に気づいていないことも...
他にも、高齢者は筋力や柔軟性・体幹機能が低下しています。周囲を確認するための首の回転やとっさのハンドル操作に必要な腕の上げ下げに支障が出ることによって、事故につながることも多いです。
さらに、頸椎や脊椎に疾患を抱えている高齢者も多く、これらの疾患は感覚障害を引き起こすことがあります。感覚障害によってアクセルやブレーキを踏む力を調整できないことも、事故を引き起こす要因の1つです。
過信は禁物!交通事故を引き起こす高齢者の思い込み
交通事故を引き起こす高齢ドライバーの中には、これまで無事故・無違反で、運転スキルに自信を持たれている方も多くいらっしゃいます。加齢に伴う身体的な変化への自覚がないまま、これまでと同じ意識で運転することで、事故を引き起こしてしまうのです。「高齢になるに従い、誰しも自動車運転が困難になる」という認識を持ち、自分の現時点での自動車運転能力を適切に把握することが、交通事故を防ぐ第一歩です。
また現行の制度では、運転免許取得から70歳までは自動車運転に関する教育が一切実施されておらず、若いうちに免許を取得した高齢者の中には「空白の50年」を経て運転への安全意識が低下している方も多いです。このことは、決して個人だけの責任ではなく、社会の課題であると言えるでしょう。
まとめ
私たちの日々の生活に欠かせない自動車運転。近年話題に上ることが多い高齢ドライバーによる交通事故には、複合的な要因があることが分かりました。
さらに鍵野先生によると、現在問題になっているのは高齢者による交通事故だけではないそう。スマートフォンの普及に伴い「ながら見運転」が増えたことで、全体の死亡事故率も上昇しています。
どの年代の方も交通事故のリスクを日々意識し、安全なマイカーライフを送りましょう!