日々を懸命に生きていると、誰しも気持ちが沈むことはあるもの。『自分の機嫌は自分で取ろう』という言葉を聞く機会も多いですが、そうはいってもなかなか難しい...そんな悩みを解決するのが「WRAP(元気回復行動プラン)」です。自分らしい生き方のヒントになるWRAPについて知り、実践してみましょう‼
今回お話をお聞きした人
森ノ宮医療大学 総合リハビリテーション学部 作業療法学科 准教授/作業療法士 小川 泰弘先生
大阪府立大学総合リハビリテーション学部卒業、大阪府立大学大学院で博士号(保健学)を取得。社会医療法人北斗会さわ病院で作業療法士として勤務後、森ノ宮医療大学 保健医療学部 作業療法学科 講師を経て、2023年4月より現職。
研究内容:
・病識の心理防衛的側面に関する研究
・精神障害者の社会的役割と居場所感に関する研究
・インターネット依存と睡眠/生活リズムに関する研究
WRAP(元気回復行動プラン)とは?
WRAPはWellness Recovery Action Planの略で、日本語では「元気回復行動プラン」と呼ばれています。
1990年代にアメリカの精神障がい当事者であるメアリー・エレン・コープランドが考案し、2000年代に日本に流入しました。前向きに人生を送るために必要な自己選択を助け、メンタルの浮き沈みを自分自身でコントロールするための手法として精神科ユーザーのコミュニティーで発展し、現在では日本全国の当事者やその考えに共鳴した医療者の間で実施されています。
WRAPをやってみよう!
WRAPを実施する上で欠かせないのは「元気に役立つ道具箱」をつくることです。これは、自分が行うことで元気になれる行動や生活の工夫を「道具(Tool)」としてリストアップしたもので、自分の元気を維持するためのプランを作成する際に必要になります。小川先生によると、『道具は決してスペシャルなものである必要はなく、朝起きてカーテンを開けるなど日常的にできる行動でOK。たくさんあればあるほど良いです!』とのこと。「昼寝をする」のようにただ行動だけを定めるのではなく、「この音楽をかけて、お気に入りのパジャマを着て、目覚ましをかけずに昼寝をする!」のようにより具体的な行動の方が良いそうです。WRAPは1人ですることもできますが、シェアすることで他の人のアイデアに刺激を受け、自分だけでは気づけなかった道具を発見できることもあるため、複数人でやるのがおすすめです。
そして道具を見つけた後は、日常生活で積極的にその道具を使ってみましょう。近年世界的に注目を集めている心理療法・マインドフルネスでは、今この瞬間に注意を向けてありのままの状態を受け入れることが、ストレス軽減などの効果を生むと言われています。WRAPでも同様に「今自分はこの道具を使って元気を回復させている!」と意識しながら行うことで、よりリフレッシュしている実感が得られます。
状況に合わせて道具を使いこなすために、単語帳やノート、スマホアプリに道具をたくさん書きだしてストックしている方も多いそう。気分が沈んでいる時は道具を使えるチャンス!と考えれば、毎日を前向きに過ごせそうですね。
精神医学領域で注目を集める、人道的なケア
WRAPは自分の元気を回復させる道具を用いてメンタルをコントロールする手法ですが、精神医学領域では、薬物療法に依存しないケアの手法として「オープンダイアローグ(開かれた対話)」も注目を集めています。これは患者本人と友人や家族、そして医療者が輪になって対話を行う治療方法で、対話で生まれる相互作用により、自然に症状の回復がめざせることが分かっています。オープンダイアローグは本来治療ではなく、ケアの手法なのですが、そのような人道的なケアに治療的な効果があるのは驚きですね。
現代では精神医学領域の治療は薬物療法が主流ですが、患者の人権を尊重し人と人との関わりを通じて良い作用をもたらす人道的なケアの発展により、治療の選択肢の幅が広がることが期待されています。
まとめ
WRAPに取り組んでいる方は精神科ユーザーが大半ですが、小川先生によると『自分の人生を知り尽くす喜びを得られる素晴らしい取組なので多くの方にやってみてほしい!』とのこと。ちなみに小川先生のおすすめの道具は、お風呂上がりの濃いめの美酢(シークワーサー味)炭酸強め!これで大体の疲れが吹き飛ぶそうです。
日々のタスクに追われ疲れ切った人が多い現代社会ですが、あなたもWRAPを用いて元気を回復させてみませんか?