ゴールデンウイークを間近に迎え、釣りが好きな筆者にとっては休暇・海況ともに待ちわびた時期が近づいてきました。釣った魚でビールを…想像しただけでヨダレがこぼれそうになりますが、これからの時期のニュースで気になるのは、アニサキスをはじめとする食中毒の話題…。そこで今回は、寄生虫を専門に研究されている関根先生に、奥が深すぎる寄生虫の世界についてお話を伺いました。
今回お話をお伺いした人
森ノ宮医療大学 医療技術学部 臨床検査学科 講師/臨床検査技師 関根 将 先生
京都大学大学院 医学研究科人間健康科学系 修士課程修了、修士(人間健康科学)。専門は寄生虫学、 ウイルス学など。臨床検査技師として京都第二赤十字病院に勤務、2019年より現職。寄生虫感染者を減らすため、ケニアで現地調査を行うこともある。
そもそも寄生虫ってなに?
寄生虫は病原体を大別した際、細菌・ウイルス・真菌と並ぶ1つの種類です。目に見えないほど小さなものから10mを超えるものまで、その種類は多岐にわたります。
特に線虫と呼ばれる種類は、そこらへんの土や水にもたくさん存在していますが、すべてがヒトをはじめとする宿主に寄生するわけではありません。また寄生しても少数寄生の場合では、体内にいるけどほとんど悪影響を与えないという種類も存在します。
寄生虫学で面白いのが、そもそもなぜ寄生虫が宿主に寄生するのか、はっきりとは分かっていない所です。その方が楽だとか、栄養をとるために必要に迫られて、など様々な説がありますが…。
ただ宿主に悪影響をおよぼすものがいるのは確かで、彼らの生活行動や体内にいることで起こるアレルギー反応の結果などにより、様々な症状が現れ、時には死に至ることもあります。
不思議な寄生虫の生態
このように、まだまだ分からないことが多い寄生虫ですが、その中でも今後の研究によって人類にとって利益になりそうな生態をご紹介します。
「回虫」や「糞線虫」などいくつかの種類の寄生虫は、ヒトの腸で繁殖することを目的としていますが、経口的にヒト体内へ侵入後、一度は肺や脳を経由してから(どこを経由するかは種によって異なりますが)もう一度、腸へ戻ることが知られています。
この際、基本的には他の器官に寄り道することはなく決まった経路を通り肺や脳へ行くのですが、何を目印に移動しているのかが分かっていません。ただこれが明らかになると、特定の臓器にのみ作用する薬を作ることができたり、難しいとされている脳に作用する薬を簡単に作れたりと、今より薬効を上げたり、副作用を抑えられたりすることが期待できます。
また皆さんも一度は耳にしたことがあるであろう有名な「アニサキス」は、様々な宿主を経て最終的にイルカやクジラの胃に到達し繁殖することが目的です。ただ、なぜ目的地であるイルカやクジラに辿り着くことができていると認識できるのか、その方法も詳細にはわかっていません。線虫は嗅覚が発達しているため、おそらくイルカやクジラにしかない匂いを感知しているのだろうという考えもあります。線虫のこの優れた嗅覚を応用することで、ガンのリスクを判定する技術(※1)がすでに商用化されています。
※1ガンのリスク判定では、アニサキスとは異なる線虫を利用
日本の寄生虫対策は世界トップクラス!
一般的にはあまり知られていませんが、日本の寄生虫対策は世界でも注目されており、これまで多くの寄生虫感染による病気を撲滅してきました。
例えば一昔前、ミヤイリガイという淡水生の巻貝を媒体とする、「日本住血吸虫(にほんじゅうけつきゅうちゅう)」という寄生虫による被害が深刻でした。当時は有効な薬剤も開発されていなかったため、日本ではこの貝そのものを根絶(※2)し、結果的に日本住血吸虫を絶滅させることに成功。貝にとってはかわいそうな話ですが、このような取り組みを多々行うことで、現在の日本での寄生虫被害は世界でも類を見ないほどわずかとなっています。
こうした技術と経験は発展途上国へ技術提供されている他、「イベルメクチン」という、いくつかの寄生虫感染症に対する特効薬を開発された北里大学の大村智特別栄誉教授が、ノーベル医学・生理学賞を受賞されたことは記憶に新しいかと思います。
※2一部地域では監視下のもと生息している
まとめ
今回、ひょんなことから寄生虫について関根先生にお聞きしましたが、先生曰く
「寄生虫のことなら何時間でも話せますよ」
とのことで、記事以外にも興味深い内容がたくさん伺うことができ、あっという間に予定していた取材時間が終わってしまいました。まだまだわからない寄生虫の世界だからこそ、これからの伸びしろもたっぷりありそうなので、今後も情報をチェックしていこうと思います!