新型コロナウイルスの流行も落ち着き、ようやく日常が帰ってきたと感じるこのごろ、街や川沿いでランニングを楽しむ方をよく見かけます。そんなランナー達の間で人気が高まっているのが、骨伝導イヤホン。タウンユースで活用している人も増えてきました。
耳をふさがないため疲れにくく、安全にも寄与すると言われますが、以外な落とし穴があることをご存じでしょうか…。
今回お話をお伺いした人
森ノ宮医療大学 言語聴覚学科 学科長(教授)/言語聴覚士 中谷 謙 先生
ワシントン州立大学大学院で修士号(言語聴覚科学)、金沢大学大学院医学系研究科で博士号(保健学)を取得。急性期病院の脳神経内科にて言語聴覚士として勤務した後、4年制大学で言語聴覚士養成に従事。2024年4月より現職。日本高次脳機能障害学会評議員、認知神経科学会評議員ほか。
耳で音を聞くとは
音は空気の振動として耳に届くと、気導(耳の穴~内部)を通り鼓膜を震わせます。その震えが有毛細胞という耳の奥にある細胞を振動させた結果、電気信号を発生させます。その電気信号が脳に伝わることで、音として処理されるのです。
骨伝導イヤホンの音が聞こえる仕組み
通常のイヤホンは、耳の穴付近で空気の振動を起こすため、通常の聞こえ方と同じメカニズムで音が聞こえます。一方、骨伝導イヤホンは空気の振動ではなく、耳周辺の骨を震わせることで音の信号を脳へ伝えます。余談ですが、普段、自分の声はこの骨導と気導の両方で聞いているので、気導だけで聞く録音した自分の声に違和感が生まれます。
骨伝導イヤホンの落とし穴とは
筆者は昔、母親から
「そんな大きな音で音楽を聴いていると、耳が悪くなるよ!」
と叱られた記憶がありますが、骨伝導イヤホンは、通常のイヤホンと異なり気導を使用しないため安全と思われがちです。
しかし骨伝導イヤホンも有毛細胞で音を感知することは変わりなく、大音量で聞くと聴力低下の恐れは等しくあります。周囲の音が聞き取りやすいのが骨伝導イヤホンのメリットではありますが、それが故に通常では使用しないほどのレベルまで音量を上げてしまう原因になることに注意する必要があります。
有毛細胞は一度破壊されると、二度と再生することはありません。一時の楽しみのために、一生後悔しないよう、適切な音量で聞くために通常のイヤホンと骨伝導イヤホン、場所や環境に応じて適切に使い分けることが大切です。
(オマケ)耳が2つあるワケ
ヒトをはじめ、動物には2つの耳が備わっています。ただよく見てみると、その付き方は千差万別。
有名なところだとフクロウは頭部の左右にありますが、左右で形や高さが異なります。これは左右で異なる情報を得ることで獲物の位置を割り出すためにあるそうです。ヒトも頭部の左右にありますが、バランスよく配置されていることで、左右の時間差や強度差を分析したり、一定の方向に注意を向けることで、雑踏の中でも相手の話だけ聞き取ることができます。
このようにヒトは、言葉を交わしコミュニケーションをとるために、この付き方になっているんですね。好きな音楽を楽しむこともいいですが、友だちとの会話も楽しめるよう、普段から耳を大切にしてあげましょう。
まとめ
人生を豊かに彩ってくれる音楽。日常から離れ、自分だけの世界に浸ることができるのは、生きていく上で何かとストレスを受ける現代で貴重な時間です。
しかしそれも、ちゃんと聞くことができる自分の耳があってのこと。便利さの裏に隠れた危険性をしっかり理解し、適切な距離で関わっていくことが大事ですね(大声)。