医師が伝えたい「人間ドックにまつわる事実」

2024.11.27

年に一度の定期健康診断では問題がなくても、漠然と健康に不安を感じている人は多いのではないでしょうか。そんな人には、自覚症状がない段階で癌などの疾患や疾患リスクを調べられる「人間ドック」の受診がおすすめです。
「オプションが多くてどれを選べばいいかわからない」「本当に必要なの?」と疑問の声も多い人間ドック。今回は実際に人間ドックの担当経験を持つ医師が、まだ人間ドックを受けたことのない人が知るべき「意外な事実」について紹介します。

今回お話をお伺いした人

森ノ宮医療大学学長/医師 青木 元邦 先生
大阪大学医学部卒、医学博士。専門は循環器学、老年病医学、分子生物学。大阪大学医学
部附属病院、米国ハーバード大学医学部ブリガム&ウイメンズ病院などに勤務後、大阪大
学大学院医学系研究科准教授、森ノ宮医療大学保健医療学部教授を経て、2021 年 4 月より現職。

リスクを増やす可能性も? 検査前の NG 行動 


健康診断や人間ドックの検査前には「前日は何時までに食事を済ませる」「朝食は抜く」などのルールが設けられていることがあります。これを守らないと、検査の結果にさまざまな影響が出てしまいます。
特に影響があるのは血液検査と画像検査です。「血糖値に影響が出て、正確な数値が測れない」「消化管内の食物が邪魔で病気を見落としてしまう」「胆のうが収縮して中が見えなくなり、ポリープや胆石などの発見ができない」といった、深刻な病気の見逃しにつながる可能性があります。
また、少しでも人間ドックの結果を良くしたいとの思いから、検査の 1か月位前から生活を見直す人もいらっしゃるかも知れません。検査後もそれが継続できればいいのですが、そうでなければほぼ意味がありません。青木医師によると「食事制限や禁酒を 2 週間ほど継続すれば、確かに中性脂肪や肝機能の数値が下がることもある。しかし、それはむしろ動脈硬化や脂肪肝などのリスクや徴候を見逃してしまう」とのこと。禁煙に至っては検査の数値にほぼ影響がないため、無意味と言えます。「正しい診断ができなくなるからその場しのぎなことはしないでほしい」というのが、医師の本音のようです。

こんな病気もわかる!? 人間ドックの意外な実用性


近年は医療技術の発達が目覚ましく、必ずしも高齢者の病気ではない「くも膜下出血」や、発症に気付きにくい「認知症」のリスクも、人間ドックの一種である「脳ドック」である程度調べられます。MRIにより「くも膜下出血」の原因となる脳動脈瘤の発見も可能です。また採血で認知症関連タンパク質を測定することで、軽度認知障害のリスクを知ることもでき、日常生活の改善で予防できる場合もあります。
このように人間ドックを受診することで、かつて予防が困難だと言われていた疾患に対する対処も可能になります。
森ノ宮医療大学附属の「大阪ベイクリニック」では「脳ドック」のほか、「物忘れドック」や下肢筋力を可視化できる「ロコモ検診」など、多様なドックメニューを取り扱っているそうです。

医師がバリウム検査より胃カメラ検査を推す理由


人間ドックで消化器系の検査を行う場合、バリウム検査か、胃内視鏡検査(以下、胃カメラ)かを選べる病院も多いですが、青木医師は胃カメラを推奨しています。直視下で観察できる胃カメラの方が検出精度が高く、また、バリウム検査で疑わしい影を見つけた場合、確定診断のため結局胃カメラをすることになるので、最初から胃カメラを選ぶほうが効率的であるためです。
また胃カメラは検査が辛いからと敬遠されがちですが、麻酔を使えば負担が軽減されます。最近は鼻や喉の「局所麻酔」だけでなく「鎮静麻酔」で寝てもらって検査をする病院が増えています。「鎮静麻酔」は手術などの全身麻酔とは異なりリスクも軽減されています。局所麻酔だけの場合は、その場で映像を見ながら説明を受けられるメリットがありますが、鎮静麻酔の場合でも後で写真や録画を見られるので問題ありません。
青木医師は、自身が胃カメラ検査を受けるときも鎮静麻酔を使用するそうで「寝ている間に終わるので、受ける側は楽だし、正直に言うと医師も検査に集中できる。動かれたり苦しそうにされたりすると、やはり気を遣う。」とのこと。この方法なら、胃カメラ検査のハードルもぐっと下がりそうです。

まとめ

実は青木先生の奥様も検査が嫌いだそう。「妻を説得して、消化器系の検査を受けてもらったら『意外と大変ではなかった。むしろ検査を受けて何もなかったからとても安心した』と言っていた。私は医師として、自覚症状がほとんどなくても進行している症例をいくつも見てきたので、人間ドックを受けたことのない人は、ぜひこの機会に受診してほしい」と語りました。
記事で紹介した人間ドックの検査はほんの一例で、豊富なメニューから自分に合った検査が選べます。健康の不安をスッキリ払拭するためにも、ぜひ人間ドックを活用しましょう。

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