…ゲホッ!ゲホッ!!ご飯を食べている時、ふいに起こる「むせ」、ビックリしますよね。なぜ「むせ」が起こるのか、今日は理学療法士の観点から見た「むせ」のメカニズムと対策に迫ります。
今回お話しをお聞きした人
森ノ宮医療大学 総合リハビリテーション学部理学療法学科 学科長 教授/理学療法士 堀 竜次先生
1989年より理学療法士として星ヶ丘厚生年金病院(現・星ヶ丘医療センター)に勤務、2017年 兵庫医科大学大学院 医学研究科 博士課程修了後より現職。専門は呼吸リハビリテーションや嚥下などの内部障害理学療法学。
「むせ」のメカニズム
人間は食べ物を飲み込む際、甲状軟骨(のど仏)が顎の先に向かって移動することで喉の内部で2つの動作を行っています。
① 喉頭蓋という蓋で気管の入り口をふさぐ
② 気管が前に引っ張られ、気管の後ろにある食道が広がる
これらの動作により食べ物は気管に入ることなく食道から胃へ送られます。なお、この動きは特に意識しなくても自然に行われます。
この際、何らかの要因によって喉頭蓋が気管をふさがない状態になると、食べ物は気管から肺へ入ることとなります。これを「誤嚥(ごえん)」といいます。健常であればこの段階で「むせ」ることで、食べ物は再び外へ追い出されます。
「むせ」の原因
誤嚥が起こるのは、喉頭蓋が上手く気管をふせげないことが原因でしたが、その要因は大きく2つ。
①筋力低下
加齢や、廃用性(使わないため)などにより筋力が低下することで、飲み込む動作に支障が生じます。日常的によく噛んで食べるほか、話すことでもトレーニングになるため、意識的に行うことが効果的です。
実際、コロナ禍初期の治療では患者さんは絶食していたのですが、そのわずかな期間で口回りの筋肉が衰えたことで、誤嚥による肺炎を罹患した方が増えたというデータがあります。
②姿勢
意外に思われるかもしれませんが、飲み込む際の姿勢も重要です。猫背になり頭部を前方へ突き出すような姿勢になると、上手く飲み込むことができません。
よくご飯を食べながら手元に置いたスマホを見ている方を見かけますが、特にこの姿勢になりやすいので注意が必要です。また、ローテーブルで食事をとる際も気を付けてください。あぐら姿勢で座ると、骨盤が後傾し猫背になります。正座や椅子に座るなど、猫背になりにくい環境を整えることが大切です。
座り方による姿勢の違い(イメージ)
「むせ」は幸せ!?
先に説明したように、「むせ」は自身を守ろうとする身体の正常な反応です。ところが、この「むせ」のために必要な筋肉が衰えると、むせることなく食べ物が肺に侵入…免疫が落ちた状態だと肺炎を引き起こします。肺炎による死因は、日本人の三大死因に次ぐ割合を占め、そのうち90%以上が誤嚥による肺炎です。「むせ」が起こることは、身体の防衛機能が働いている幸せな状態とも言えますね。
とはいえ、そもそもむせないことが大切です。特にいつもより「むせ」が多くなってきたな…と気づくことで、嚥下に必要な筋肉が衰えたことを知り、改善を図ることができます。しかしその兆候を見落とすと、「むせ」が起きない状態を改善したと思ってしまい、重篤な状態を引き起こすかも。そこで次項では、あなたの嚥下機能をチェックする方法をご紹介します。
嚥下機能をチェックしてみましょう
テストは簡単です。30秒で何回、唾を飲み込むことができるか数えてください。
5回以下で要注意、3回を下回ると嚥下障害が起きている可能性が高いので、受診をお勧めします。
まとめ
医療技術の発展により、これまで治らなかった病気が治り、長生きできる時代。だからこそ加齢により誰にでも起こる嚥下障害は他人ごとではなく、誰もが意識しなければいけません。ただそのトレーニング方法は実にシンプル。よく噛み(食べ)、よく話す…楽しい生活がトレーニングになるのなら、今日から始めてみてもいいのではないでしょうか。