統合失調症は、およそ100人に1人が発症するとても身近な病気です。精神疾患に対する理解が深まりつつある昨今、病名を聞く機会は増えましたが、「実際のところどんな病気かは分からない」という方も多いのではないでしょうか。今回は、そんな統合失調症の症状や誤解されていることが多い点について、精神領域を専門とする作業療法士の小川先生に教えてもらいました!
今回お話をお聞きした人
森ノ宮医療大学 総合リハビリテーション学部 作業療法学科 准教授/作業療法士 小川 泰弘先生
大阪府立大学総合リハビリテーション学部卒業、大阪府立大学大学院で博士号(保健学)を取得。社会医療法人北斗会さわ病院で作業療法士として勤務後、森ノ宮医療大学 保健医療学部 作業療法学科 講師を経て、2023年4月より現職。
研究内容:
・病識の心理防衛的側面に関する研究
・精神障害者の社会的役割と居場所感に関する研究
・インターネット依存と睡眠/生活リズムに関する研究
統合失調症って?当事者がとらえる世界
統合失調症は、日本国内に約80万人の患者さんがいる精神疾患です。10代後半から20代で発症する方が多く、若年層が発症しやすいのが特徴です。
症状には、陽性症状と陰性症状の2種類があります。陽性症状は、「通りすがりの人に悪口を言われる」「周囲の人が危害を及ぼそうとしてくる」など、健康な時にはなかった状態が現れてくるのが特徴です。これに対して陰性症状では、健康な時にはあったはずのもの、例えば意欲・関心などが著しく低下します。その結果、身の回りのことができなかったり、これまで熱中していた趣味を楽しめなかったりすることで、つらい気持ちを抱える患者さんも多いです。
また統合失調症は、脳の機能がうまく働かず、考えがまとまらない、目の前のことに集中できないなど認知機能の低下も現れます。
早期治療が大切!統合失調症での受診のススメ
統合失調症は、病気の特性として患者さん自身が自覚を持ちづらいことが多く、また全体患者数の多くを占める若年層は、周囲に「思春期特有の行動だ」と思われて、行動や言動に大きな変化が出るまで発症を見逃されやすいです。さらにご家族や周囲の方々の中には、本人の病気への自覚がない中で、精神科への受診を説得することに苦慮されるケースも多いため、なかなか受診につながりにくい点に困難があります。
統合失調症は、放置しておくことで自然に治ることは稀です。また症状が悪化すると、自分を傷つけてしまう(場合によっては自分を守ろうと誰かを傷つけてしまう)こともあるため、ご本人だけでなく家族や周囲の方々も苦悩を抱えることが多い疾患です。早期に適切な治療を行うことで回復も早く軽症で済む可能性があるため、周囲の人がそれに気づき、早期に受診できるよう支援することが大切です。
誤解されていることも多い!統合失調症のウソ・ホント
その実情を正しく理解されていないことも多い統合失調症。誤解されやすいポイントについて、クイズで学びましょう!
Q.統合失調症の症状はうつ病と似ている。
答えは...NO
色々なことに興味や関心を持ちづらくなるという面は似ているかもしれません。しかし、うつ病の症状では、自分を責めたり、絶望を感じたり、暗く悲しい気分が続いたりと、否定的な感情や思考が特徴です。一方で、統合失調症の陰性症状は、心の動きが平坦になり、状況に合った感情を持ちづらくなります。そのため、周囲からは「本来の人間らしさが失われ、何も考えていない」ように見えます。
Q.統合失調症は遺伝的要因のみによって発症する。
答えは...NO
統合失調症の原因は全て解明されているわけではありませんが、遺伝的な要因だけでなく、環境やストレスもトリガーになっていると言われています。
親から子への遺伝は10%、同じ遺伝子を持つ双子でも両方が発症する確率は50%で、遺伝的要因が備わっていたとしても、必ずしも発症するわけではありません。
まとめ
精神疾患はまだまだタブー視されることも多く、理解が進んでいない領域です。しかし今回取り上げた統合失調症のように発症率が高い疾患も多く、苦しんでいる患者さんは大勢いらっしゃいます。患者さんが適切な治療を行い、役割を持って暮らせる社会の実現のために、まずは疾患を「知る」ところからはじめましょう。